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医療機器不具合対応は回収?改修? | MeKiKi

 医療機器の不具合対応として『かいしゅう』が行われますが、漢字として『回収』と『改修』の2種類を使い分けています。

 今日はこの『かいしゅう』について取り上げます。




リコールを国が情報発信

 医療は憲法第25条の生存権、医療法や医師法などの個別の法律が関わる規制産業です。

 採血のために針を刺す行為は当たり前のように行われていますが、法律が無ければ傷害行為なのか医療行為なのか定義が難しくなります。

 医療機器は『医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律』、通称『薬機法』(やっきほう)が主たる規制法となり、規則や通知で細かい調整が図られています。

(目的)
第一条 この法律は、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器及び再生医療等製品(以下「医薬品等」という。)の品質、有効性及び安全性の確保並びにこれらの使用による保健衛生上の危害の発生及び拡大の防止のために必要な規制を行うとともに、指定薬物の規制に関する措置を講ずるほか、医療上特にその必要性が高い医薬品、医療機器及び再生医療等製品の研究開発の促進のために必要な措置を講ずることにより、保健衛生の向上を図ることを目的とする。

医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律

 医療に用いられる機械器具類に不具合があった場合、健康を損ねる恐れがあるため、メーカーからリコールが発表されると、国の機関からも公表されます。




回収の要否

 医療機器に何らかの不具合があった場合は薬機法に基づいてリコールされますが、リコールについて法で定義されています。

(回収の報告)
第六十八条の十一 医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器若しくは再生医療等製品の製造販売業者、外国特例承認取得者又は第八十条第一項から第三項までに規定する輸出用の医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器若しくは再生医療等製品の製造業者は、その製造販売をし、製造をし、又は第十九条の二、第二十三条の二の十七若しくは第二十三条の三十七の承認を受けた医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品を回収するとき(第七十条第一項の規定による命令を受けて回収するときを除く。)は、厚生労働省令で定めるところにより、回収に着手した旨及び回収の状況を厚生労働大臣に報告しなければならない。

医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律

 旧薬事法から薬機法へと変わる中で、回収の着手から、回収の状況についても報告が必要となりました。
 その際に出された医薬食品局長通知にクラス分類などが詳細に記されています。

 回収の要否は以下の3点を鑑みて、総合的に判断されます。

  1. 有効性及び安全性への影響
  2. 混入した異物の種類及び製品の性質
  3. 不良範囲の特定に関する判断

 医療機器は承認/認証を受ける際に『有効性』と『安全性』が評価されます。製造については安全性が担保されて当然、使用上では有効性と安全性のバランスが評価されます。
 例えばAEDなどの除細動器は高エネルギーを発するので健康な人が『電気ショック』を受ければケガをする危険性がありますが、心臓を再起動しなければならない人には必要なエネルギーです。高エネルギーを付加する事は有効性を重んじています。
 仮に、この有効性である『電気ショック』ができなければ、それを必要としている患者にとって危険な事になります。
 あるいは、ボタン操作する救助者が感電してしまってはなりませんし、救助者に電気が流れてしまうと患者には電気が流れず、心臓には必要な電気が流れません。

 こうした観点から、有効性と安全性について問題があれば回収となります。安全性が高くても、有効性が承認/認証内容を満たさないと回収されるのは医療らしい考え方です。

 異物混入については食品などとも似ていますが、かなり厳しい内容になっています。
 毛髪などの異物混入であれば即回収は当たり前だとは思いますが、その混入の仕方が二重袋の内袋と外袋の間であっても、関連するロットは全回収になります。
 滅菌という工程では、滅菌バッグと呼ばれる袋の中に医療機器を入れて封をした上で滅菌し、この封を開けない限りは滅菌状態が続くことになりますが、封をする際のシールが甘かったら、異物が混入していなくても回収の対象となります。

 医療機器であるがゆえの、厳格な対応です。

【参考】外包装と内包装の間に異物が混入した例(クラスⅡ・回収)
【参考】シール接着不足により無菌性を保てない可能性の例(クラスⅡ・回収)

 不良範囲の特定に関する判断については、場当たり的な考えではなく、Quality Management Systemに基づいて実施されます。

 医療機器の製造や販売については業許可(登録)が必要であり、医療機器が承認/認証される際には医療機器製造業者と医療機器製造販売業者が名を連ねます。

 承認/認証された状態を維持するための体制が無ければ国民の健康を損ねる恐れがあるため厚生労働省では『QMS省令』と呼ばれる『医療機器及び体外診断用薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令』を定め、適切な措置を講じるよう求めています。

 QMSについては改めて、記事として取り上げる事にします。

【参考】医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令
【参考】厚生労働省: 医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令の一部改正について, 薬生監麻発0326第4号, 令和3年3月26日




3つの種別と3つのクラス

 医療機器の回収に際して分類があります。

 回収の方法に応じて『回収』『改修』『患者モニタリング』のいずれかが選択されます。

 健康被害のリスクに応じて『クラスⅠ』『クラスⅡ』『クラスⅢ』に分けられます。2021年度は12月24日に初めてクラスⅠが発出されましたが、それほど稀なケースになります。

【参考】厚生労働省: 医薬品・医療機器等の回収について, 薬食発1121第10号, 平成26年11月21日, 厚生労働省医薬食品局長




クラス分類について

 医療機器の回収に係るクラス分類は、数字が小さいほど危険です。

クラスⅠその製品の使用等が、重篤な健康被害又は死亡の原因となり得る状況を言う。
クラスⅡその製品の使用等が、一時的な若しくは医学的に治癒可能な健康被害の原因となる可能性がある状況又はその製品の使用等による重篤な健康被害のおそれはまず考えられない状況をいう。
クラスⅢその製品の使用等が、健康被害の原因となるとはまず考えられない状況をいう。

 ここは注意点なのですが、医療機器の承認/認証に係るクラス分類では、数字が大きいほど危険です。
 クラス分類は機器開発や製造をする者が決めるのではなく、厚生労働省が設けた定義に従います。

クラスⅠ不具合が生じた場合でも、人体へのリスクが極めて低いと考えられるもの
クラスⅡ不具合が生じた場合でも、人体へのリスクが比較的低いと考えられるもの
クラスⅢ不具合が生じた場合、人体へのリスクが比較的高いと考えられるもの
クラスⅣ患者への侵襲度が高く、不具合が生じた場合、生命の危険に直結するおそれがあるもの

【参考】MeKiKi: DB, 医療機器クラス分類表


 回収に係るクラス分類の基本的な考え方は以下のとおりです。

  1. クラス分類を行う場合、当該不良医薬品・医療機器等の使用に起因する直接的な安全性に係る状況(手術時間の延長を生じるおそれのある状況等を含む。)だけでなく、その使用により期待される効果が得られない等有効性に係る状況(正確な診断への影響を及ぼすおそれのある状況等を含む。)についても勘案し、これらを総合的な「健康被害」としてクラス分類を行うこと。
  2. 回収に当たっては基本的にクラスⅡに該当するものと考え、健康被害発生の原因になるとはまず考えられないとする積極的な理由があればクラスⅢに、クラスⅡよりも更に重篤な健康被害発生のおそれがある場合にはクラスⅠと判断すること。
  3. クラスⅠ若しくはクラスⅢと判断することが妥当と思われる場合、又はその後の状況により当初のクラス分類を変更することが妥当と思われる場合には、その理由を明確にした上で都道府県薬務主管課等より事前に厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課へ相談すること。

 どういう場合に、どのクラスになるのかは事例を見るとわかりやすいです。

 クラスⅠは年間数件しか報告されない稀なケースです。このような事態にならないように承認/認証制度があります。
 しかしながら工業製品ですので、予期せぬ不具合も起こり得ます。その不具合によって大きな手術をしなければならないような場合にクラスⅠが適用されます。
 2020年度に出された4件のクラスⅠすべてが循環器(心血管系)に直接作用する物でした。

 ほぼ身体的影響は考えられないクラスⅢは年間50件にも満たない程度の発生です。
 多いのがラベルの間違いです。『承認』という部分を『届出』と書いたり、文字が欠けていたりという内容です。
 製品自体の機能に何ら影響はありませんが、法で定められたとおりに出荷する義務がありますので、承認/認証の範囲を逸脱していると認められて回収となります。

【参考】箱ラベルの数字が1多かった事例(クラスⅢ・回収)

 毎年数百件あるのがクラスⅡです。
 これは軽微なものから、クラスⅠに近い物まで非常に幅が広いです。

 人工呼吸器の『はんだ接続不良』『器械はアラームを発生せずシャットダウンします』『中等度の低酸素血症(血中酸素濃度の低下)につながるおそれがあります』というケースでもクラスⅡです。

 『化粧箱の中に針の長さの異なる製品が混在している』というケースでもクラスⅡです。

【参考】添付文書の印刷の一部が不完全であった事例(クラスⅡ・回収)
【参考】添付文書が添付されていなかった事例(クラスⅡ・回収)
【参考】ロット番号の記載を誤った事例(クラスⅡ・回収)
【参考】バーコードラベルが貼付されていなかった事例(クラスⅡ・回収)




回収と改修

 医療機器の回収には『回収』と『改修』があります。

 回収とは、医療機器を引き取ることです。

 改修とは、医療機器を物理的に他の場所に移動することなく対応する事を言います。

 回収と改修以外にも、稀に出るのが『患者モニタリング』です。患者モニタリングとは、医療機器(製品)を患者から摘出することなく、当該品を使用している患者の経過を観察することを言います。

 回収には当たらない対応として『在庫処分』と『現品交換』があります。

 未出荷で製造販売業者の管理下にある医療機器については在庫処分という形で修理、改良、調整、廃棄ができます。




回収情報に記載すべき内容

 回収情報という物は、全てが同じフォーマットに見えますが、よく見ると違います。

 実は書式でガチガチに決められている訳ではなく、法律で報告すべき事項が定められているので、解釈が分かれたりします。

(回収報告)
第二百二十八条の二十二 法第六十八条の十一の規定により、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器若しくは再生医療等製品の製造販売業者若しくは外国特例承認取得者又は法第八十条第一項から第三項までに規定する輸出用の医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器若しくは再生医療等製品の製造業者(次項及び第三項において「製造販売業者等」という。)が、報告を行う場合には、回収に着手した後速やかに、次の事項を厚生労働大臣(令第八十条の規定により当該権限に属する事務を都道府県知事が行うこととされている場合にあつては、都道府県知事。以下この条において同じ。)に報告しなければならない。
一 回収を行う者の氏名及び住所
二 回収の対象となる医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、当該品目の製造販売又は製造に係る許可番号及び許可年月日又は登録番号及び登録年月日並びに当該品目の承認番号及び承認年月日、認証番号及び認証年月日又は届出年月日
三 回収の対象となる当該品目の数量、製造番号又は製造記号及び製造販売、製造又は輸入年月日
四 当該品目の製造所及び主たる機能を有する事務所の名称及び所在地
五 当該品目が輸出されたものである場合にあつては、当該輸出先の国名
六 回収に着手した年月日
七 回収の方法
八 回収終了予定日
九 その他保健衛生上の被害の発生又は拡大の防止のために講じようとする措置の内容

2 回収に着手した製造販売業者等は、次に掲げる場合は速やかに厚生労働大臣にその旨及びその内容(第三号に掲げる場合にあつては、回収の状況)を報告しなければならない。
一 前項各号に掲げる報告事項に変更(軽微な変更を除く。)が生じたとき
二 回収に着手した時点では想定していなかつた健康被害の発生のおそれを知つたとき
三 その他厚生労働大臣が必要があると認めて回収の状況の報告を求めたとき

3 製造販売業者等は、回収終了後速やかに、回収を終了した旨を厚生労働大臣に報告しなければならない。

医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則

 そして、回収情報を公表しているPMDAのサイトには留意事項として『ここで提供している情報は、医薬品等の回収を行う製造販売業者等が作成したものです。』と書かれています。

 すなわち、文面についてPMDAが指示している訳ではないという事になります。

 じっくり探すと出荷開始日よりも最終出荷日の方が日付が早い物、平成×年と書くべきところが平成×月×月など漢字を間違えているものなど細かい誤記はたくさんあります。

 少し問題なのが『一般的名称』という厚生労働省が示している公式の文言を誤記しているケースです。

 名称は法に基づいて記載義務がある項目ですので、それを誤記するのはやや問題、その誤記によってユーザーが情報を取り損ねる可能性があることが大きめの問題となります。




回収に対しては優しい目を

 医療機器が回収になる場合には大きく2つの原因があります。

 1つは製造過程の問題で不良品が出てしまい、検査でも見抜けなかった場合です。不良品が出ない設計にできれば良いのでしょうか、医療機器は滅菌工程が必要であったり、色々と制約がありますので単なる工業製品として見る訳にはいきません。
 工業製品なので、たくさん作ればエラーもあると思います。厳重な検査をしていてもすり抜ける可能性はゼロにはできません。

 もう1つの原因は人的ミスです。ラベルを張り間違えた、箱と中身を取り違えたという人的ミスです。
 このミスは、構造的な問題があれば改善していく必要がありますが、改善が難しいのであれば、ユーザー側も『ちょっとしたミスはあるかもしれない』と疑った目で医療機器を触り、ミスに気づいたらその製品の使用をやめれば、健康被害は回避できます。

 優しい目で見て貰えなくなるには経緯があると思います。
 不具合によって健康被害が出るかもしれないが『当該事象が発生した場合でも医療従事者が対処』などの文言で、現場の医療従事者が対処すれば健康被害はない、被害が出た場合は現場の医療従事者が悪いと読める回収文書を発行する製造販売業者があるので、現場の方々も苛立ってしまいます。

 医療機器が提供し続けられなければ、医療の水準は下がってしまう可能性もありますので、ユーザーとメーカー、共存できるよう回収には相互でもめてしまう事が無い事を願います。




おわりに

 今回は医療機器の不具合に対して行われる回収について取り上げました。

 回収の告知文書を見ると回収と改修の2種類の文字が並びますが、簡単に言えば物理的に病院から持ち出すか否かということで分けられていました。

 筆者が臨床に居た頃は回収と改修の意味も考えずに、メーカーやディーラーに言われるがままに対応していましたが、しっかりと文書を読み込み、潜むリスクや再発防止の策を検討すべきであったと今さらながら反省しています。

 医療機器は工業製品、たくさんのパーツが組み合わさり、たくさんの工程を経て造り出されるので不具合発生は不可避ですが、それによる健康被害を出さない事が目標とされていますので、この回収情報は関係者に隅々まで届く事を期待しています。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。