薬事法は薬機法に
2013年の薬事法改正により旧薬事法は薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)に変わりました。
法律の名称が変わるのは大きなことです。
従来は薬寄りであった法律が、医療機器の章立てがなされた事は、医療機器業界にとっては大きなインパクトでした。
このとき、医療機器のクラス分類を国際ルールのようなものであるGHTF (The Global Harmonization Task Force) に近づけました。
もう1つ、医療機器の承認/認証のルールがクラス分類や認証基準の有無により審査が変わるというものでした。
【参考】 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
目次
薬事法は薬機法に
厚生労働省資料
GHTF
呼称はクラスⅠ~Ⅳ
クラス分類の基本的な考えかた
針は針でも
チューブ類は留置期間と留置場所
回収/改修のクラス分類との違い
機器別のクラス分類対応表
クラス分類ルール(分析機器を除く)
├ I.非侵襲型機器
├ II.侵襲型機器
├ III.能動型機器に関する追加ルール
├ IV.追加ルール
分析機器のクラス分類のルール
├ クラスⅢ
├ クラスⅡ
├ クラスⅠ
解釈
厚生労働省資料
厚生労働省の審議会で配られた資料は参考になりました。
チャートでクラス分類の大筋を見立てる事ができるとされていました。
【参考】 厚生労働省: 薬事・食品衛生審議会 医療機器・体外診断薬部会(2013年12月2日)
GHTF
GHTFとは”Global Harmonization Task Force”の略称で医療機器国際規格整合化会議と訳されます。
国々の間の医療機器規制の統一性を高めるために1992年に発足したタスクフォースです。
有益な医療技術を効率的かつ安全に広める事を目指しています。
【参考】IMDRF (International Medical Device Regulators Forum): GHTF Archives
【参考】PMDA: GHTFの動向と国際規格について, 第15回 ISO/TC 210 (医療機器品質共通標準)説明会 (2012年1月27日)
【参考】日医機協グローバル整合委員会: GHTF文書集 : 医療機器規制の国際整合をめざして(2001年)
呼称はクラスⅠ~Ⅳ
医療機器のリスクによるクラス分類はローマ数字でⅠ~Ⅳに分類されています。
クラスⅠ | 不具合が生じた場合でも、人体へのリスクが極めて低いと考えられるもの |
クラスⅡ | 不具合が生じた場合でも、人体へのリスクが比較的低いと考えられるもの |
クラスⅢ | 不具合が生じた場合、人体へのリスクが比較的高いと考えられるもの |
クラスⅣ | 患者への侵襲度が高く、不具合が生じた場合、生命の危険に直結するおそれがあるもの |
検索上の都合ですが、半角英数の組合せで『IV』とは書かず、『Ⅳ』を1文字で書きます。Shift-JISの場合、WindowsとMacで表示が異なってしまうので、MeKiKiのデータベースサイトではUTF-8で登録しています。
外国人の方々には使いづらいデータベースになっています。
クラス分類の基本的な考えかた
健康や生命への侵襲や危害により、クラスが上がるほど危険になります。
病院で注射を受ける時、薬液が入っている『注射筒』(シリンジ)はクラスⅠです。
皮膚を切って血管にアクセスする『単回使用注射用針』(ニードル)はクラスⅡです。
針を抜いたあとで注射針を刺したところへ貼る『救急絆創膏』はクラスⅠです。
3-0373 注射筒, 注射器具及び穿刺器具, Ⅰ, 汎用注射筒
2-0620 医薬品注入器, 注射器具及び穿刺器具, Ⅱ, 単回使用注射用針
3-1192 整形用品, 家庭用衛生用品, Ⅰ, 救急絆創膏
針は針でも
針だからすべて同じクラスという事ではなく、用途などに応じてⅠ~Ⅳまであります。
腎不全患者の『透析用留置針』はクラスⅡ、麻酔用の『脊髄くも膜下・硬膜外針』はクラスⅢ、心臓の壁を通す『経中隔用針』はクラスⅣです。
適正に使用する状況を鑑みて、形状や強度に必要十分な条件を求める中でクラスが分けられます。
使用中に事故があった場合に出る影響によってクラスが分けられます。
2-0651 注射針及び穿刺針, 注射器具及び穿刺器具, Ⅱ, 透析用留置針
1-0360 注射針及び穿刺針, 注射器具及び穿刺器具, Ⅲ, 脊髄くも膜下・硬膜外針
1-0024 注射針及び穿刺針, 注射器具及び穿刺器具, Ⅳ, 経中隔用針
チューブ類は留置期間と留置場所
人間に身体に挿入して使用されるチューブ類は、太さや硬さなどに大差は無いように見えますが、その目的や留置場所、期間などによってクラスⅠ~Ⅳに分かれています。
心臓血管造影に用いられるカテーテルはクラスⅣです。心臓血管系に挿入するという事は部品が脱落すると生命に危害を与える可能性がありますし、感染性物質が付着していれば数分で全身に物質が巡ってしまう可能性もありますので、クラスⅣであることに納得できます。
導尿用のカテーテルでは短期使用品はクラスⅡ、長期使用品はクラスⅢです。これは留置期間でクラスが分かれています。このように期間で分かれる製品は他に、検査中だけ使用される物と入院期間中にわたって使用されるような物でクラスが分かれる物などがあります。
食堂に入れるカテーテルはクラスⅠです。仮に部品が脱落しても取り出しやすいですし、体内に吸収される事なく排泄されそうです。口腔から肛門まで消化器系は体内ではなく、体外と考える事ができる部位ですので、そもそも一時的にでも体内に留置される物とは一線を画しているようです。
見慣れぬ『嘴管』という字は『しかん』と読みます。『嘴』は『くちばし』という漢字です。大学の教科書では見ましたが、臨床ではあまり見かけない漢字です。クラス分類表の類別名称では『嘴管』の文字が使われています。
ピンセットを『鑷子』(せっし)と言いますが、クラス分類表では『ピンセット』で探す事ができます。ここは難しい漢字は使いません。
3-0411 医療用嘴管及び体液誘導管, チューブ及びカテーテル, Ⅰ, 食道用バルーンカテーテル
2-0791 医療用嘴管及び体液誘導管 チューブ及びカテーテル, Ⅱ, 短期的使用泌尿器用フォーリーカテーテル
1-0382 医療用嘴管及び体液誘導管, チューブ及びカテーテル, Ⅲ, 長期的使用泌尿器用フォーリーカテーテル
1-0060 医療用嘴管及び体液誘導管, チューブ及びカテーテル, Ⅳ, 中心循環系血管造影用カテーテル
回収/改修のクラス分類との違い
同じローマ数字を使うクラス分類に医療機器の回収/改修があります。
根本的な違いとして、クラスⅠが最も危険な回収/改修情報です。医療機器のリスク分類とは真逆です。
クラスⅠ | その製品の使用等が、重篤な健康被害又は死亡の原因となり得る状況を言う。 |
クラスⅡ | その製品の使用等が、一時的な若しくは医学的に治癒可能な健康被害の原因となる可能性がある状況又はその製品の使用等による重篤な健康被害のおそれはまず考えられない状況をいう。 |
クラスⅢ | その製品の使用等が、健康被害の原因となるとはまず考えられない状況をいう。 |
機器別のクラス分類対応表
どの医療機器がクラス何なのか、一覧表で探すことができます。
【参考】 厚生労働省: 薬事・食品衛生審議会 医療機器・体外診断薬部会(2013年12月2日), 参考資料1 クラス分類ルール
クラス分類ルール(分析機器を除く)
I.非侵襲型機器
1.すべての非侵襲型機器は、ルール2、ルール3、またはルール4が適用されない限り、クラスⅠである。
2.最終的に体内に注入、投与または導入する目的で血液、体液もしくは組織、液体、もしくは気体を供給または保存するように胃としたすべての非侵襲型機器はクラスⅠである。
- 2-1
例外:クラスⅡまたはそれよりも高いクラスの能動型医療機器に接続される場合、クラスⅡである - 2-2
例外:血液もしくはその他の体液を保存または供給し、あるいは臓器、臓器の一部もしくは対組織を保存するように意図した場合、クラスⅡである。
3.体内への注入を意図した血液、その他の体液もしくは他の液体について、その生物学的または科学的組成を変化させる事を目的としたすべての非侵襲型機器はクラスⅢである。
- 3-1
例外:その他の処置が濾過、遠心または気体/熱交換から成る場合はクラスⅡである。
4.損傷した皮膚に接触するすべての非侵襲型機器は:
滲出駅の圧迫または吸収のために機械的なバリアとして使用するように意図した場合はクラスⅠである。
- 4-1
例外:主として真皮を超えた創傷で、二次治癒でのみ治癒の可能な創傷に使用するように意図した場合はクラスⅢである。 - 4-2
主として創傷の局所管理をするように意図した機器を含め、その他の場合はすべてクラスⅡである。
II.侵襲型機器
5.人体開口部に関与し、外科的侵襲型機器以外のものであって、
a)能動型医療機器への接続を意図しない、
または
b)クラスⅠの医療機器との接続を意図したすべての侵襲型機器は:
- 5-1
一時的使用を意図した場合はクラスⅠである。 - 5-1
例外:眼粘膜に使用することを意図した場合は、クラスⅡである。 - 5-2
短期的使用を意図した場合はクラスⅡである。 - 5-3
例外:咽頭までの口腔、鼓膜までの外耳道または鼻腔で使用する場合はクラスⅠである。 - 5-4
長期的使用を意図した場合はクラスⅢである。 - 5-5
例外:咽頭までの口腔、鼓膜までの外耳道または鼻腔で使用し、かつ粘膜に吸収されにくい場合はクラスⅡである。 - 5-6
人体開口部に関与し、外科的侵襲型機器以外のものであって、クラスⅡまたはそれよりも高いクラスの能動型医療機器に接続するように意図したすべての侵襲型機器はクラスⅡである。
6.一時的使用を意図したすべての外科的侵襲型機器はクラスⅡある。
- 6-1
例外:再使用可能な手術器具はクラスⅠである。 - 6-2
例外:電離放射線の形でエネルギーを供給するように意図した場合はクラスⅢである。 - 6-3
例外:生物学的影響を及ぼすように、或いは全体的にまたは主に吸収されるように意図した場合はクラスⅢである。 - 6-4
例外:デリバリー・システムにより医薬品を投与するよう意図した際、これが使用モードによっては潜在的に危険な方法である場合はクラスⅢである。 - 6-5
例外:特に、心臓または中心循環系の欠陥について、これらの部位に直接接触し、診断、監視または矯正するように意図した場合はクラスⅣである。
7.短期的使用を意図したすべての外科的侵襲型機器はクラスⅡである。
- 7-1
例外:医薬品を投与するように意図した場合はクラスⅢである。 - 7-2
例外:体内で化学変化を受けるように意図した場合は(歯牙に適用する場合を除く)クラスⅢである。 - 7-3
例外:電離放射線の形でエネルギーを供給するように意図した場合はクラスⅢである。 - 7-4
例外:生物学的影響を及ぼすように、あるいは全体的にまたは主に吸収されるように意図した場合はクラスⅣである。 - 7-5
例外:特に、中枢神経系に直接接触して使用するように意図した場合はクラスⅣである。 - 7-6
例外:特に心臓または中心循環系の欠陥に対して、これらの部位に直接接触し、診断、監視または矯正するように意図した場合はクラスⅣである。
8.すべての植込み型機器および長期外科的侵襲型機器はクラスⅢである。
- 8-1
例外:歯牙に適用するように意図した場合はクラスⅡである。 - 8-2
例外:心臓、中心循環系または中枢神経系に直接接触して使用するように意図した場合はクラスⅣである。 - 8-3
例外:生命維持を意図した場合はクラスⅣである。 - 8-4
例外:能動型植込み型医療機器を意図した場合はクラスⅣである。 - 8-5
例外:生物学的影響を及ぼすように、あるいは全体的にまたは主に吸収されるように意図した場合はクラスⅣである。 - 8-6
例外:医薬品を投与するように意図した場合はクラスⅣである。 - 8-7
例外:体内で化学変化を受けるように意図した場合は(歯牙に適用する場合を除く)クラスⅣである - 8-8
例外:胸部インプラントの場合はクラスⅣである。
III.能動型機器に関する追加ルール
9.エネルギーを投与または交換するように意図したすべての能動型治療機器はクラスⅡである。
- 9-1
例外:人体へ、あるいは人体からエネルギーを投与または交換するような特性を備えた際、エネルギーの性質、密度および使用部位によっては、潜在的に危険な場合はクラスⅢである。 - 9-2
クラスⅢの能動型治療機器の性能を制御または監視するように意図した全ての能動型機器はクラスⅢである。
また、そのような機器の性能に直接影響を及ぼすように意図した全ての能動型機器はクラスⅢである。
10.診断を意図した能動型機器はクラスⅡである。
- 10-1
人体に吸収されるエネルギーを供給するように意図した場合(可視または近赤外で患者の身体を照明するために単独で使用する場合はクラスⅠである)、または - 10-2
放射性医薬品の生体内分布を造影するように意図した場合、または - 10-3
重要な生理学的プロセスの直接的な診断または監視ができるように意図した場合。 - 10-4
例外:特に例外:特に、
a)例えば心機能、呼吸、中枢神経系活動などの、その変動が即座に患者の危険となるおそれがあるような、重要な生理学的パラメータを監視するように意図した場合、
または
b)即座に危険となる臨床状態にある患者を診断するように意図した場合はクラスⅢである。
11.医薬品、体液もしくはその他の物質を人体へまたは人体から投与および/または除去するように意図したすべての能動型機器はクラスⅡである。
- 11-1
例外:含有物質の性質、関係する身体の部位または使用モードによっては潜在的に危険な方法である場合はクラスⅢである。
12.その他のすべての能動型機器はクラスⅠである。
IV.追加ルール
13.分離して使用すれば医薬品と考えられる物質を不可欠な成分として含有し、その物質が機器の働きを補助する目的で人体に作用を及ぼす場合、すべての機器はクラスⅢ又はクラスⅣである。
14.活性または不活性を問わず、動物またはヒトの細胞/組織/その由来物から製造されまたはこれを含有する場合、すべての機器はクラスⅢ又はクラスⅣである。
- 14-1
例外:不活化した動物組織もしくはその由来物から製造または含有し、正常な皮膚のみに接触する場合はクラスⅠである。
15.特に、医療機器を消毒または滅菌するために使用するように意図したすべての機器(消毒剤を除く)はクラスⅡである。
(備考)
クラス分類ルールにおける用語の定義については、GHTFのクラス分類ルール案における用語の定義に準拠することとする。
2.分析機器のクラス分類のルール
クラスⅢ
1.誤った診断結果が得られた場合に、人の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがある検査項目を測定する自己検査用測定機器
2.主たる反応系を内蔵する専用分析機器のうち、体外診断用医薬品で承認を必要とする検査項目を測定するもの
クラスⅡ
1.誤った診断結果が得られた場合に、人の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがある検査項目以外の検査項目を測定する自己検査用測定機器
(当該診断機器による診断結果が医学的に重要な状態を確定しないもの、又は診断結果が暫定的で、適切な追加の検査によるフォローアップを必要とするものを含む)
2.主たる反応系を内蔵する専用分析機器のうち、標準品の無いもの(クラスⅢ品目を除く。)
クラスⅠ
その他の分析装置
(備考)
新検査項目、新測定原理、新たに自己検査用に移行するもの、新たな検査項目を測定する主たる反応系を内蔵する専用分析機器は大臣承認とし、承認の際にクラス分類を決定するものとする。
解釈
これらの解釈は開発や製造を担う者が決めるのではなく、厚生労働省やPMDAの解釈が優先されます。
とはいえ、どこに配慮して開発すると良いかを示しているルールになります。
例えば一時的、短期、長期などという留置期間でクラス分類が分かれる製品の場合、性能としては1か月の留置ができても薬事承認手続きでは3日以内の留置にしてクラス分類を低く抑えようと考える場合もあります。
まずは急性期の治療に用いて、有効性や安全性が確立されてから亜急性期や回復期にも適用していくという考え方があります。
また、CDCガイドラインなどで、何日以内に交換するという目安が示されている物は、何カ月留置できるデバイスを作った所で臨床では受け入れられない可能性もあります。
用途も重要になりますので、例えば同じ太さの針でもどの血管に、どのような目的で刺すのかでクラス分類が異なります。人工透析のように生体機能代行装置に接続して生命維持に関わる場合は、採血などとは目的が異なりますのでクラス分類はハイリスクの方へ属します。
弊社が関わる医療機器開発において、このルールは確認させて頂いております。
侵襲性があるか、血液等に触れるか、粘膜などから吸収されやすい構造かなどでおおよそのクラス分類がわかり、その企業が開発できるレベル感に合っているか、ターゲットプライスと一致するかなどを見極める事ができます。
おわりに
今回は医療機器のクラス分類と国際標準について取り上げました。
GHTFルールという、申し合わせのようなものの中で、各国の技術や製品を少しでも早く自国に取り入れられるための歩調合せが行われていました。
侵襲的治療機器、非侵襲的治療機器、分析機器に大別されるルールの中で、リスクに応じた分類が日本ではⅠ~Ⅳの4つにカテゴライズされています。
このルールに基づいて医療機器は開発され、承認/認証されて臨床に届けられますので、医療機器ビジネスに携わる者として多少の知識は持っておくべきことなのではないかと思います。
あまり文量が多いと読みづらいので要約した部分もありましたが、足らずはいつか、また深く掘り下げたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。