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亡くなり方がわかる? | MeKiKi

死亡原因

 死亡が起こる原因のことを『死因』(しいん)と言い、普段の生活ではあまり使いませんが、ドラマや映画を見ているとよく出てきそうな言葉です。

 生命保険の契約時にも死因や死亡原因という言葉が繰り返されます。

 ヘルスケアビジネスを創出する上で、死亡原因の傾向を知り、今後の予測が立てられる事はプラスに働くと考えられます。




無限の生命はない

 長寿はあり得ますが、永遠の生命は無いとすれば、誰もがいずれは亡くなります。

 『惜しい人を亡くした』『あの若さで』『大往生した』など様々な言葉を掛けられると思います。亡くなり方がどうであったにせよ、亡くなるという事は人間にとって不可避です。

人間五十年 下天の内を比ぶれば 夢まもろしの如くなり ひとたび生を得て 滅せぬ者の あるべきか



亡くなり方

 厚生労働省の資料の中に『死因別死亡確率』というものがあります。ある年齢の人が将来、どのような原因で死亡するのかを確率で表したものです。2010年のデータは下図のとおりです。

死因別死亡確率(2010年)

 今日の時点で最新データとなる2020年の確率を見ると、脳血管疾患や肺炎は顕著に減少していることがわかります。従来は救えなかった病気が新薬や技術進歩により救命できるようになったり、予防が奏功して死因になりづらくなっている背景があります。

【参考】厚生労働省:死因分析, 平成22年簡易生命表
【参考】厚生労働省:簡易生命表




死因確率は変化する

 わずか10年でも0歳の将来の死亡原因の『肺炎』は半減しました。

 その背景には喫煙者の減少、大気汚染の減少、健康診断での胸部X線撮影の普遍化などが挙げられます。

 2020年といえばCOVID-19の流行拡大があった年であり、2021年末までの2年間で日本国内で1万8千人以上、世界では540万人以上がCOVID-19により亡くなっています。

 COVID-19は重度の肺炎を起こし、それが原因でお亡くなりになる人が多いです。死亡原因『肺炎』となります。

 今の日本では年間135万人超がお亡くなりになりますので2年間で260万人超、その内の1.8万人がCOVID-19による肺炎だとすると0.7%くらいが今までに無いタイプの肺炎でお亡くなりなったと考える事もできます。

 他の死因が減って肺炎が増えますので、相対的には数%の増加が見込まれます。これが死因確率に反映されるのか、一過性という事で統計から除外されるかわかりませんが、現実としてこの2年間は新たな疾患がまん延しています。

【参考】JOHNS HOPKINS UNIVERSITY & MEDICINE: CORONAVIRUS RESOURCE CENTER




最近の死因を知る

 1日平均3,700人がお亡くなりになる日本で、毎日全員の死因を調べることはいまのところできません。DXの時代、今後は変わるかもしれません。

 死因について垣間見れる方法として新聞の『おくやみ欄』があります。

 有名な方々の訃報を載せています。年少者に有名人や功績を遺した人が少ないので掲載されるのはご高齢の方が多いですが、どこかの社長を勤めた資産がありそうな人でもがんや肺炎でお亡くなりになっている事が見て取れます。

 2019年まではこの欄に載る事がなかった『新型コロナウイルス』の文字は、統計表にもまだ出てこない最近の死因です。




国の死因統計

 新聞報道されるのはごく一部の限られた人の情報ですが、国では統計データとして死因を発表しています。

 厚生労働省の『人口動態統計』では死因別の人数を統計データとして公表しています。

 『死因簡単分類別にみた性別死亡数』の表を見ると、がん(悪性新生物)の中でも消化器系や呼吸器系の死亡数が細かくわかります。

【参考】厚生労働省:人口動態調査




高血圧は死因ではない?

 統計データで『高血圧性疾患』で亡くなられる方は1万人前後、全体の1%未満であることがわかります。

 『心疾患(高血圧性を除く)』という死因は20万人超で死因の15%程を占めています。

 高血圧が良くない事は知られた事ですが、お亡くなりになる最期は高血圧自体ではなさそうです。
 しかし、これだけ高血圧の制圧を政府や医師が推す訳ですから、高血圧が影響した何らかの疾患が主因となると考えられます。




周産期にもリスク

 世界トップクラスの乳幼児死亡率の低率国である日本でも、周産期の死亡がゼロではありません。

 妊娠・分娩の死亡数は2020年だけでも23人です。
 周産期死亡という枠では2,664人死亡しています。

 死産は17,278もあり、自然死産と人工死産は半々です。

 出生数は84万人、死亡数は137万人と人口減少が著しく進む中で『子宝』に対し社会がどう動いていくのかが重要になります。

 市場規模としては100万出生時代に比べて半減するとも見られており、既に子供服業界や教育業界では新たな取り組みが始まっています。

 周産期市場から離脱するのではなく、しゃかいにとっての子宝のためのビジネスを創出できれば、利潤の追求と社会性、企業価値を高める事業になると思います。

  • 妊娠できる可能性を高める
  • 妊娠期間中の安全性を高める
  • 妊娠期間中の妊婦に生き甲斐や楽しみを提供する
  • 妊婦に安全で美味しく栄養バランスのよい食事を提供する
  • 出産を待つ家族や周辺の方々の楽しみを増やす
  • ママとベビィのオシャレを演出する
  • 子育ての苦労を軽減する
  • 子育てのデータをデジタル化する
  • 妊娠や子育てに役立つ情報を提供する

 妊娠ライフや子育てファミリーの生活がより明るく、楽しく過ごせるようなヘルスケアビジネスを創出するという視点から、様々な余地が残されていると思います。




婚姻が減った2020年

 人口動態調査では婚姻と離婚の件数も報じています。

 2020年の婚姻は525,507組、離婚は193,253組でした。これは前年比でそれぞれマイナス12.3%、マイナス7.3%でした。

 婚姻が激減した背景には結婚式が挙げられない自粛生活が続いたこともあると思いますが、新婚さんが減れば出生数にも影響が出る可能性があります。

 結婚したいという社会づくりも必要ですし、結婚しなくても出産や育児がしやすい社会づくり、たとえば養子縁組などの在り方も問われていく2020年台になりそうです。




がんは不動の首位

 亡くなる方々の4分の1以上はがん(悪性新生物)に侵されています。

 肺や気管などの呼吸器系が目立ちますが、胃や腸などの消化器系をひとくくりにすれば呼吸器系より圧倒的に多いです。

 医局の分かれ方を見ていても『耳鼻咽喉科・頭頸部外科』のように首から上全般を1つの科とする所もありますし、『消化器(胆肝膵)』というように消化器の特定臓器を扱う科もよく見られます。

死亡原因の内の腫瘍関連の悪性新生物



がんでは死なない

 『「がん」では死なない「がん患者」』の著者である東口先生にお話を聞いたことがありますが、腫瘍そのものが致命傷を与えるのではなく、がんとの共存生活において衰弱する事にも課題があるとお聞きした記憶があります。

 病気にならないようにダイエットしましょうという健康指導に誤りはないのですが、『痩せすぎ』にはリスクが伴います。

 生きるために必要な栄養は蓄えつつ、がんに対しての戦闘態勢を整える事が重要でありますが、痩せる事を優先すると栄養摂取(搾取)が上手ながん細胞が富栄養状態、宿主である患者は衰弱してしまうという悪いストーリーが待っています。

 がん患者のための栄養食品は大塚製薬さんなどから発売されていますが、食べようという気を起こすためのサービスはまだまだこれからだと思います。

 元々、独居高齢者は孤食が多かったですが、COVID-19で孤食の割合は増えたと思います。ITリテラシーが高くない高齢世代でもデジタル技術を活用した『孤食回避策』はあると思います。

 がんでは簡単には死なない人間、がんと長く共存しなければならない人生を豊かにするサービスやデバイスが求めらえていると考えます。

「がん」では死なない「がん患者」  栄養障害が寿命を縮める
がん患者の大半が、栄養不良による感染症で亡くなっている点を指摘しています。 約2000の医療施設で稼働する「栄養サポートチーム(NST)」の仕組みを築き上げた一人の医師による著書です。
AmpiTa



脳卒中でも死なない

 死亡原因の3位であった脳血管疾患は下位に落ちました。脳卒中でも助かる人が増えたため『死亡原因』にならないケースが増えたためです。

 この10年でAEDは数倍増えましたが、循環器疾患で亡くなる割合は横這いです。
 脳卒中にはAEDのような市民が使えるツールが無いにも関わらず救命できるようになった背景には、お薬や治療法の多様化と、脳神経系の医師らの尽力があります。

 脳神経外科医は1万人にも満たないと聞きますが、救急搬送されて脳神経外科に世話になる患者は非常に多いです。

 予定手術でも4~6時間は当たり前、顕微鏡下で細かい作業を愛護的に行うので8時間以上という事も少なくありません。

【参考】協和キリン:アクチバシン, よくある医薬品Q&A
【参考】田辺三菱製薬:グルトパ注(アクテプラーゼ)
【参考】エーザイ:クリアクター




脳卒中は撲滅されていない

 死亡原因から脳卒中が減った事実はありますが、日本人が脳卒中にならなくなった訳ではありません。

 脳梗塞においては血管を詰まらせている原因を取り除くことさえできれば血流が回復し、脳に与えるダメージを減らす事ができ致死的状況からは脱する事が期待できます。
 治療薬としての『t-PA』(組織プラスミノーゲン活性化因子)は救命率向上に寄与しています。

 t-PAの保険収載当初は発症から3時間以内の投与でなければ診療報酬が支払われないお薬でしたので比較的都市部、搬送に時間がかからない地域に偏っていた印象でしたが、4時間半に延長されてからは適用が拡大しました。

 発症者数が不変で救命率が上がった場合、助かって生き続けられる事は患者や家族にとってHappyな事だと思います。
 ただし、脳に少しでもダメージがあれば麻痺が残るなどの恐れもあり、リハビリ生活や症状固定により多少の不自由と共存していかなければなりません。

 脳卒中で救わてた生命が、その後も良い人生につながっていくためにはテーラーメイド的なリハビリや装具が必要かもしれません。鈍った感覚を補うセンサーが必要かもしれません。買物を代行してくれるサービスが必要かもしれません。

 死因の第3位にあった脳血管疾患が救命できるようになったいま、更に救命率が上がるかもしれない未来を見据えて新たなデバイスやサービスが期待されます。

【参考】国立循環器病研究センター:4.5時間を過ぎても、専門的な脳梗塞救急治療が重要です




死亡データからビジネス創出

 死亡に関するデータはたくさん出ています。

 それらの『今』を切り取ってビジネスを考える事も良いですが、過去からの『差分』を掌握することで脳卒中のような変化を捉え、新たなビジネスの余地を見つける事ができます。

 既にフィットネスクラブ(スポーツジム)では病後の回復中や症状固定の元患者を受け入れる仕組み作りが始まっています。

 肺炎で亡くなる方が増えているというデータがありますが、肺炎にも喫煙のように長年の習慣から来るものと、誤嚥性肺炎のように身体機能の衰えが関係するものなど、多様にあります。
 高度経済成長期は喫煙者が多く居ました。排気ガスなど都市の空気汚染も深刻でした。COPDという肺疾患はこれからしばらく増えて行きますが、COPDが生活に支障を来たす事に懸念があり、それを解消するデバイスやサービスには潜在市場があります。

 交通事故死は劇的に減りましたが、交通事故に遭って生活が一変する人はまだまだたくさん居ます。損害賠償保険で金銭的解決ができても、不自由になった身体は戻りませんので、こうした穴埋めをするツールにも期待が高まります。
 もしかするとそのツールは、損害賠償の対象に含まれる可能性があり、加害者が一生分の費用負担をするとなれば、欲しがる被害者も増えるのではないかと思います。

 筆者は交通事故被害者の一人、事故前の仕事はできなくなりましたし、コルセットは一生の付き合いになりました。一時金で解決する事が社会の常識のようなのでコルセットなどは自腹です。
 大事故でしたが、死なずに済んだ事を良しとしなければなりませんが、困っている人は世の中にたくさんおられるとも思います。




おわりに

 今回は死亡原因について取り上げました。

 死亡原因を知る事で、ヘルスケア産業におけるマーケット動向を垣間見ることができます。

 死亡してしまっては手の打ちようがありませんが、死ぬ前にできること、診療に直結しなくても生活を豊かにすることなどライフ全般について検討することで、新たなヘルスケアビジネスを創出できるのではないかと考えます。

 『死』と『生』は表裏一体なところもありますので、ぜひ妊娠や出産についてもご検討頂ければと思います。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。