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職務発明規程(医科) | MeKiKi

 医工連携・産学連携でデバイスやサービスの開発を進めるにあたり、連携先となる医療従事者らのアイディアやシーズを活用することが多々あります。

 そのアイディアが職務上の発明であるのか否か、それを事業化するにあたりとるべき手続きはどのようなものがあるのか、組織ごとにルールがあります。

 重大な職務規程違反があれば、連携した医療従事者が身分を失う可能性すらありますので、都度確認が必要になります。




職務発明とは?

 その名の通り、職務上の発明です。

 ただし、解釈は色々とあります。

 筆者は『あなたは臨床業務が仕事であって、開発は仕事ではありません』『開発は勤務時間外の課外活動です』と言われた事があります。
 それに従って、勤務時間が終わってから研究開発を行っていましたので、自ら考案した物は個人の所有物となっていました。

 このようなケースでも線引きが難しい事があります。
 普段の業務があるからこそ、発明できる場合です。
 例えば車椅子を開発しようと思ったとき、実際の作業は勤務時間外であっても、車椅子に関するノウハウや最新情報は勤務中に得られているとします。
 職務によって着想を得たという点で職務発明だと言われることもあれば、そう言ってしまうと研究活動にも給与を支払わなければならないのではと考えてしまう場合など、様々です。

 その曖昧さを是正するために職務発明規程が設けられています。




職務発明規程とは?

 文字通り職務発明について定めたものです。

 どこからどこまでが職務発明かを具体的に示している場合もあれば、職務発明委員会のような組織に委ねるというものもあります。

 いずれにしても取り扱われるのは『職員が行った発明』であるので、職員で無い人の発明は対象外です。職員であったとしても、行っていなければ対象外です。

 医工連携では医療機関に勤務する人の発明に関わることが多いので、その病院のその職種としての職務であるのかが境界になることがあります。

 医療に関わればすべてが職務発明という訳ではないことは先述のとおりですので、職務発明委員会への提出書類の書き方でも解釈が変わって来ることがあります。

 例えば小児科専門病院において認知症に役立つ何かを発明したときに『若年者の発症も知られる認知症において』『高齢者に多い認知症において』と書き出しを変えただけでも印象が違います。




専門家は弁理士

 職務発明に関する専門家は弁理士です。

 内部規程については、その組織の法務担当者が詳しいと思いますので、組織毎のローカルルールについては専門外かもしれません。

 しかしながら、多くの職務発明に関わる弁理士には様々なノウハウもありますので、専門人材として頼れる存在です。




医工連携における交渉や調整は専門コンサル

 士業の仕事は弁理士の一択かもしれませんが、現場の調整などは専門コンサルタントを招き入れるのも1つの方法です。

 筆者は国立高度医療研究機関で『知的資産部』に所属していました。

 医療側と企業側の両側の意見を尊重し、最適解を導くための仲介役のような立場です。
 自称『ゲートキーパー』でしたが、双方に利益がもたらされる方法を模索して提案、交渉していました。

 医療者側としては事業化されなければロイヤルティも何もないですし、そもそも目の前に在る課題解決策が得られません。何としても企業に開発してもらい、事業化してもらいたいです。
 企業側は、自社ではわからない臨床のことを医療者から聞き続けたいですし、上市後も商品のファンであり続けてもらいたいという考えがあります。




医療従事者が開発に専念できるように

 企業との交渉を、多忙な医療従事者(病院職員)がするのは大変なことです。
 そもそも開発に時間を割く事も大変な中ですので、権利化を最初から諦める人も少なくありません。

 そこで役立つのがゲートキーパーです。

 臨床経験者として、発案者(医療従事者)から根掘り葉掘りインタビューし、要点や本質を捉えます。臨床経験者ゆえに齟齬が少ないことが強みになります。

 開発における打合せなどは、ある程度までゲートキーパーが代行しつつ、コアな部分は直接面談を設定します。

 そして権利化やロイヤルティの交渉もゲートキーパーが行います。




コンサル介在で成功

 医工連携専門コンサルタント(筆者)が介在して交渉が成立した事例はいくつもあります。

 そして、事業化に成功した事例もいくつもあります。

 特許などの権利化をしてから事業化するものもありますが、権利化が難しい事案であってもロイヤルティ契約を締結することは可能です。

 例えば減塩食のレシピは特許にはなりません。そもそもレシピを知財化すること自体が難しいです。
 その難題を承知の上で料理教室事業、弁当事業、レシピ配信事業、レシピ本事業などを次々と成功させました。
 もちろん契約書があり、契約書にはロイヤルティの数字も書かれています。
 厚生労働省に残されている議事録では5,600万円のロイヤルティが病院に入ったとされていますので、企業側もしっかりと対価を支払ってくれています。




院内分配にもノウハウ

 発明者が法的にも明らかである特許の場合、知財収入の行き先は発明者個人にすることは容易です。

 しかしながら、特許化するようなものではなかったり、病棟などのチームで権利を得たようなものでは、分配が容易ではありません。

 また、国立病院などでは地方厚生局の中で人事異動も多いため売上が出る頃にはもう居ないということもありました。

 開発を終えた達成感とともに、それが社会実装されて皆に使われている実感、そしてロイヤルティを受け取ることで得る独特の感情を、発案者には味わってもらいたいと思い試行錯誤しました。




規程は公開されている

 すべての医療機関に職務発明規程がある訳ではなく、存在していても公開していない場合も多いです。

 大学であれば多くが公開していますので、参考にすることはできますが、大学には研究を生業とする職員が居るので、市中の病医院には参考にならない文言も含まれます。




札幌医科大学附属病院

北海道大学病院

旭川医科大学病院

弘前大学医学部附属病院

岩手医科大学附属病院

東北大学病院

秋田大学医学部附属病院

山形大学医学部附属病院

公立大学法人福島県立医科大学附属病院

筑波大学附属病院

自治医科大学附属病院

獨協医科大学病院

群馬大学医学部附属病院

防衛医科大学校病院

埼玉医科大学病院

千葉大学医学部附属病院

国立研究開発法人国立がん研究センター東病院

聖路加国際病院

国立研究開発法人 国立がん研究センター中央病院

東京慈恵会医科大学附属病院

東京医科大学病院

慶應義塾大学病院

国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院

日本医科大学付属病院

順天堂大学医学部附属 順天堂医院

東京医科歯科大学病院

東京大学医学部附属病院

公益財団法人 がん研究会 有明病院

昭和大学病院

東邦大学医療センター大森病院

日本大学医学部附属板橋病院

帝京大学医学部附属病院

杏林大学医学部付属病院

公立大学法人 横浜市立大学附属病院

聖マリアンナ医科大学病院

北里大学病院

東海大学医学部付属病院

新潟大学医歯学総合病院

国立大学法人富山大学附属病院

金沢医科大学病院

国立大学法人 金沢大学附属病院

福井大学医学部附属病院

山梨大学医学部附属病院

国立大学法人 信州大学医学部附属病院

岐阜大学医学部附属病院

静岡県立静岡がんセンター

浜松医科大学医学部附属病院

名古屋市立大学病院

藤田医科大学病院

愛知医科大学病院

名古屋大学医学部附属病院

滋賀医科大学医学部附属病院

大阪医科薬科大学病院

大阪公立大学医学部附属病院

関西医科大学附属病院

近畿大学病院

地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪国際がんセンター

大阪大学医学部附属病院

国立研究開発法人 国立循環器病研究センター

兵庫医科大学病院

神戸大学医学部附属病院

奈良県立医科大学附属病院

公立大学法人和歌山県立医科大学

鳥取大学医学部附属病院

島根大学医学部附属病院

川崎医科大学附属病院

岡山大学病院

広島大学病院

山口大学医学部附属病院

徳島大学病院

香川大学医学部附属病院

愛媛大学医学部附属病院

高知大学医学部附属病院

福岡大学病院

久留米大学病院

産業医科大学病院

九州大学病院

佐賀大学医学部附属病院

長崎大学病院

熊本大学病院

大分大学医学部附属病院

宮崎大学医学部附属病院

鹿児島大学病院

琉球大学病院




おわりに

 規程は違反しても刑事罰を受けることはありませんが、ビジネスをしていく上で相手のルールを無視してはパートナーにはなれません。

 ルールで縛られ過ぎてもビジネスにならないこともあるので、ときには『解釈』を得ることも必要になります。

 職務上の発明でなければ職務発明にはならないというのが一般的です。
 我が子のために家で作ったオモチャに関する発明は職務とは関係ないでしょう。そこに特許性があっても職場は権利を主張することはないですが、出願に係る費用なども出して貰えません。

 あるレシピを思いついたのが勤務中であるか否かに関わらず、病院職員として事業に関わるとすれば職務発明規程や就業規則が適用されます。
 職務として認定されるのであれば、レシピ開発は勤務時間内に実施できることになりますが、事業化前にルーチンワーク以外のことを勤務時間内に実施するのも理解されにくいことですので、パートナー企業としては配慮が必要になると思います。