医療機器は回収、改修、患者モニタリングが発生すると、製造販売業者はその旨を当局に届け出るとともに、当局はそれを国民に公表し、その不具合などで生命や健康を損なわないように注意します。
医療機器には『一般的名称』というものが決められており、それは4千種類ほどです。
医療機器は何百万品種も売られていますが、それらはかならず一般的名称に属しており、その名称は一言一句間違えることなく、各社共通で使われます。
この一般的名称がなければ『これはハサミっぽいな』という程度でしか識別できず、不具合の対処が遅れる場合があります。
一般的目名称で『はさみ』を調べると、以下の5品種が見つかります。
- 単回使用はさみ(2-1645)
- 内視鏡用はさみ鉗子(3-0207)
- 歯科用歯肉はさみ(3-0946)
- 歯科用金冠はさみ(3-0947)
- はさみ(3-0948)
『はさみ』といっても、これだけの種類があります。一般的名称がそれぞれ異なります。商品として見た目が似ていても、『単回使用はさみ』と『はさみ』は薬機法上では全く別物です。
上のリストには記号を付記しましたが、これはクラス分類告示などと呼ばれる識別子です。
数字の2から始まるものがクラスⅡ医療機器、3から始まるものがクラスⅠ医療機器です。
上記のリストは、下記の検索機能を使って探しました。この機能は当サイト(mekiki.me)のデータベースを検索する機能です。この検索機能はHTMLタグとしてウェブサイトに書き込めば検索機能を実装することができます。
<form action="/html/mekiki_class_01.php?" &="" value="" target="_blank">
<b>医療機器一般的名称検索</b><br>
<div align="center">
<input type="text" name="id" style="width:90%;" value="はさみ" placeholder="検索ワード">
<input type="submit" value="一般的名称検索">
<input type="hidden" name="item" value="general_name" checked="">
<input type="hidden" name="shubetsu" value="Custom">
<input type="hidden" name="sort" value="class_name">
<input type="hidden" name="sort2" value="Asc">
</div>
</form>
一般的名称『はさみ』は類別名称は『医療用はさみ』です。では、医療用はさみを検索してみるとどうなるでしょうか。下記の検索ボタンを押してみてください。
一般的名称に『はさみ』を含まないものが1つ出てきます。
『眼科用せん刀』です。
医療用語ではハサミのことを『剪刀』(せんとう)と呼びます。
では、一般的名称として『刀』を含むものを検索してみると新たなものがリストされます。
『刀』まで広げると、ハサミではないものまで出てきてしまいますが、現場では切るという目的で使われるので、薬機法の分類は目的だけではなく、その形状や機能などにも影響を受けます。
- 単回使用眼科用せん刀
- 眼科用せん刀
- 単回使用強膜刀
- 骨刀
- 強膜刀
- 水晶体嚢切開刀
- 靭帯切開刀
- 扁桃切除刀
- 電動式植皮刀
薬事申請の緊張感
医療機器の承認/認証を受ける際には書類を書いて、所管する窓口へ提出します。
そのときに一般的名称を間違えていれば、差し戻されます。
間違えないように書いていると思いますが、回収/改修の場合には、その緊張感がなくなってしまうのか、間違えて書かれているものが散見されます。
下図は一般的名称に『天井取り付け式X線管支持器』と書かれていますが、正しくは『天井取付け式X線管支持器』です。
[誤]天井取り付け式X線管支持器
[正]天井取付け式X線管支持器
間違いは多い
以下にリストしたのは、回収や改修として掲載されたデータと、薬機法で定められている一般的名称に違いがあった例の、ごく一部です。
『X線』と『X線』の全角と半角の違いはよくあるエラーです。よくあっては困りますが。
『機具』と『器具』の違いはミスタイプなのか、どうでしょう。自社製品のことなので、自社のパソコンが候補してくるものが間違えているといのは、あまりないかなと思います。
『体内吸収性』と『吸収性体内』で前後が逆になっているケースは『あなたがたの商品でしょ!』と突っ込まれるのか『このくらいは仕方ないね』と思われるのか、意見が割れそうです。
[誤]体内吸収性固定用プレート
[正]吸収性体内固定用プレート
『装置』と『装置用』の『用』が抜けているという間違いもよく見かけます。
『呼吸器回路』と『呼吸回路』の違いも、同様の間違いはよく見かけます。
その下の『組み合わせ』は『わ』が不要です。
[誤]X線CT組合わせ型ポジトロンCT装置
[正]X線CT組合せ型ポジトロンCT装置
一文字違いでも、下記の例はいかがなものかなと思います。『電動式手術台』(でんどうしきしゅじゅつだい)というキー入力において、『でんどうしゅ』『しきじゅつだい』というキー入力はしないだろうと思います。
言葉に出してみても違和感があります。
ただし、パッと見ではわかりづらいので、もし間違い探しの問題として提供するならば、優れた問題だと思います。
『靱』と『靭』の違い
この『靱帯』(じんたい)の文字は、パソコンでよくよく確認しないと誤った字を充ててしまいそうです。
ときどき、こうした間違いがあり、いったいどこが間違えているかわからないが、検索に引っ掛からないということがあります。
ローマ数字は悪意か親切か?
ローマ数字を使う医療機器は限られていますが、その限られた医療機器に回収情報が出る事が多いです。
そして、メーカー(製造販売業者)を問わず同じ誤りをしています。
[誤]単回使用クラスIII処置キット
[正]単回使用クラスⅢ処置キット
上記のように『Ⅲ』を全角1文字にするのが正しいところを、半角英字のアイを3本並べる『III』にします。これはⅠでもⅡでもⅣでも同じです。
文字化け対策の親切であれば良いのですが、文字化けせずに掲載できている例もあるので、その心配には及ばないと思います。
悪意をもって間違えていることはないと思いますが、間違えるメリットはあるでしょうか?
一般的名称を間違えるメリットとデメリット
一般的名称を間違えた場合のメリットとデメリットについて、立場を明確にしておく必要があります。
まず、患者の視点で見れば一般的名称を間違えられると、自身が関係する医療機器の不具合などを知ることが遅れるかもしれません。
医療機関から貸し出されるような医療機器であればシリアル番号などから患者を特定できるかもしれませんが、家庭用血圧計やマッサージ器など量販店で購入できるような医療機器の場合は、個人が特定されづらくなります。
一般的名称以外にも販売名などが付記されているので見つけられるかもしれませんが、一般的名称は重要項目、回収等の情報提供の中では第一位にある最優先情報ですので、これが検索されないことは患者にとってデメリットです。
企業側からみると、早く周知したいという場合には、情報が誤っていると困ります。
一方で、出荷先も明らかですぐに回収を終えるという場合には、不具合を出してしまったという情報が世に残るだけなので、それを嫌う人が居るとすれば、検索されないことはハッピーかもしれません。
すなわち、患者にとって有益な情報は、一部の企業の人にとっては害と見ることができるかもしれません。
(中略)
そもそも一般的名称ではない
下記の事例は非常に珍しいのですが、完全に一般的名称ではないというケースです。
下記の検索機能で確認してもらうとわかりますが、『血液検査用器具』は類別名称で、一般的名称はおそらく『グルコース分析装置』です。
ここまで大胆に間違えるとどうなのかなと思いますが、自社の製品を、『品質安全統括センター』が間違えるとは考えづらいので、QMS的にどうなのかなと思います。
始まりと終わりの日
下記の製品は、出荷時期の開始日と終了日が矛盾しています。
開始日が9月ではなく7月なのかもしれない、開始日と終了日を入れ違えしているのかもしれない、色々と憶測が出そうですが、真相がわかりません。
一般的名称: 中心循環系血管内塞栓促進用補綴材
医療機器回収の概要
製品番号 OPTI0510CSS10
ロット番号 120618A-026
数量 12
出荷時期 令和元年9月2日~令和元年7月11日
一般的名称と日付の複合型
下記の事例では、回収情報より一部抜粋していますが、3カ所の誤りがあります。
一般的名称:穿刺器具
数量:50
出荷時期:平成19年10年11日~平成27年12月18日数量:35
医療機器回収の概要
出荷時期:平成14年4月25日~平成19年11年30日
1つめは一般的名称ですが、『穿刺器具』は存在せず、穿刺器具を含む名称は下記の3つになります。
- 経中隔用能動型穿刺器具
- 採血用穿刺器具
- 生検用穿刺器具
次は日付です。
まず上段の日付ですが『19年10年11日』となっています。『年年日』になっていて『月』がありません。
2つめは下段の日付ですが『19年11年30日』となっており、同様に『月』がありません。
一般的名称の書き損じは多いか?
今回は、医療機器の回収などを実施する際に出される資料について、一般的名称の書き損じをチェックしてみました。
ローマ数字での書き損じが多かったように見えますが、そこに悪意があるのか、偶然なのかはわかりません。
再発防止策として、厚生労働省から明示的に『ローマ数字は薬機法のリストに準じた全角文字を使い電子情報として同一にすること』のようなことを言って頂かないと、おそらくメーカーは直すことはないと思います。
この状態は10年以上続いているので、偶然ということはないと思います。しかも、複数のメーカーが同じ、そもそも全角で記しているものが見当たらないので、コンピュータ上では存在しないことになっています。
病院で医療機器安全管理を担う者としては、こうした小さな間違いでも『院内に該当機種はない』などと言ってしまいそうになるので、注意しなければなりません。
当面は『注意する』しか方法が無さそうですが、MeKiKi.meのデータベースでは、薬機法で示されている一般的名称に置き換えて掲載するように努めています。現状、全件チェックしてから掲載していますので、おそらく漏れがないと思います。