Magnetic Resonance Imaging(MRI)
磁気共鳴画像診断
MRIとは簡単に言うと磁石を使った検査装置です。
強い磁場と電波から画像を作ります。その数は何百枚か何千枚、仮に1mmずつのスライスでも10cm(100mm)の撮影をすれば100枚です。
1枚の画像は二次元(平面)ですが、連続的にスライス画像を得ることで、つなぎ合わせると三次元(立体)になります。
昔のシャウカステンにレントゲン写真を貼って診断という場合には二次元を医師の頭の中で三次元化していましたが、いまはコンピューターの画面上で三次元構成された画像を医師が確認します。
臨床に欠かせぬMRI
病院数やベッド数に対してのMRIの台数は日本は世界一とも言われますが、非常に普及している医療機器です。機種にもよりますが診療所(クリニック)でも保有しているところがあります。
MRIとCTは一見すると同じようなスライス画像が得られますが、それぞれに特徴があります。
筆者は脳神経外科病院に居たので両方必要な現場に居ました。脳にはMRIが欠かせません。
細かい用途については教科書的なものを見て頂くのが一番良いですし、ネットでも信頼できそうな情報が提供されています。
MRIが無いのは困る
いまの医療はEBM、科学的根拠に基づいた医療の実践が求められています。
ある病気を疑うときはある検査を実施して、ある診断が付いたらある治療をする、という『ある』の部分に当てはまる物がガイドラインなどで示されています。
脳腫瘍が疑われた場合、まずは画像診断から始まるのが一般的な診療のアルゴリズムです。
MRIを撮らずに経過観察するという事はあまり考えられないのではないかと思います。
様々な疾患においてMRI撮影が必須とされているものがあり、もし撮影しなかった場合には『なぜ撮影しなかったのか』と問われる場合もあります。
MRIの撮影時間中、じっとしていられないのであれば撮影を見送るかもしれません。MRIを撮るよりも治療を急ぐべき外傷などがあれば撮影は見送られるかもしれません。撮影しないという理由も様々ありますので撮影しないことは当然ながらあります。
MRIさえ撮影できれば治療方法を決められるということがわかっているときに、MRIが使えないとなると大変に困ります。
ヘリウムとMRI
MRIは強力な磁石を使っていますが、その維持にはヘリウムが欠かせません。
MRIの磁力を弱らせるためにヘリウムを抜くという作業があります。ヘリウムを抜かれれば診断装置として無力化されます。
ヘリウムを奪い取ればMRIが使えなくなるだけで、わざわざヘリウムを抜き取らなければただちに停止はしません。
ヘリウムガスは液体で冷却用に使われているので、冷却さえできてれば問題ありません。
迫るヘリウムの危機
ヘリウムは産業界でも使われ、特に半導体製造現場では欠かせないガスです。
まったくの不要不急ですが、アミューズメントパークなどで売られている浮く風船もヘリウムガスを使っています。
ここ数年、ヘリウムガスの需要増加と供給不足が続いています。
ヘリウムガスは天然ガスの採掘時の副産物として採れるため、ヘリウムガスだけを採掘している訳ではありません。天然ガスの採掘量に比例するとも言えます。
ロシアによるウクライナ侵攻により、ロシアからの輸出が絞られている中で、ヘリウムガスの輸出も減る可能性があります。
今こそ『ヘリウムレス』
ヘリウムが価格高騰しても入手可能であれば医療には使い続けられると思います。
しかし供給が途絶えた場合、まったく使えないモダリティになってしまいますので、代替法が必要です。
既にフィリップス(オランダ)は1.5TのヘリウムレスMRIを発表しています。
最初に封入したヘリウムガスだけで通常の稼働期間中は足りるそうです。
それでも製造時にはヘリウムガスが必要ですので、理想的にはヘリウムを使わない冷却方法か、ヘリウムを使わず磁場をつくるデバイスが求められていると思います。
今こそMRIに代わる技術
MRIは大きな磁場を使うため、磁器シールドも必要です。
テナントビルに入っているクリニックでは、滅多に導入できません。
高解像度ではなくてもMRIに代わる物、MRIと同等に高解像度でヘリウムも強力な磁場も使わないものなどにはニーズがあると思います。
おわりに
ビジネスにおいては先見性のある人が新しいモノを考案していくというイノベータータイプと、後追いするフォロアータイプが対極的にあると思います。
フォロアーが悪いということはなく、ビジネスが成り立てばどちらでも良いはずです。
医工連携という視点で言うと、先発と後発に大きな隔たりができる場合もありますので、先発であることが意義深くなることもしばしばです。
ヘリウムレスという話題については、もしかすると市場を寡占できるかもしれないですし、本製品で寡占がなくても注目を浴びる事で次の開発のお声がかかるかもしれません。
先に目を向けるということは重要です。
筆者は最近、医療機関の脱炭素に向けた情報収集に励んでいます。