災害医療とは異なる
『災害医療』と『災害時の医療』は言葉がよく似ていますが、意味合いがだいぶちがいます。
『災害医療とは』と検索すれば、非常にたくさんの結果が出てきます。
厚生労働省のホームページにも『災害医療』というタイトルの特設ページがあります。
災害医療とは?
災害医療とは、供給を上回るほどの医療需要が災害等により生じた際に行われる急性期医療や初期医療のことを指す事が多いです。
地震であれば外傷、爆発であれば熱傷や衝撃、水害であれば低体温症や溺水など要因により医療需要の内容は様々です。
共通するのは災害等によって突発的、偶発的に生じた傷病であり、糖尿病や認知症などの疾患ではないことです。
建物に押し潰されるような病態は、平時ではほとんど診る事がないと思いますが、災害医療では多発することもあります。
超急性期や初療
災害医療は比較的早い時間、発災から数時間から数日以内に発生する患者を診る事が多いと思われます。
救出に時間がかかる場合などはもっと違うフェーズもあるかもしれませんが、多くの災害級の事象では、発災から数時間で患者が殺到し、3日ほどで一段落を迎えます。
災害時の医療とは?
明確な定義はありません。
ただ分かっていることは、平時から診ていた患者を発災後も見捨てる事無く診療を継続するということです。
阪神淡路大震災があった兵庫県には現在、病院が350軒程、診療所が5,000軒程あります。
この内、災害拠点病院は18軒です。
機関災害拠点病院である兵庫県災害医療センターと神戸赤十字病院は同じ建物なので組織で言えば2軒ですが、場所で言えば1つです。
では残る5千余りの医療機関が発災後ただちに医療を停止できるのかという、そう簡単ではありません。
特に入院病床を抱える病院や有床診療所では、容易には動けない患者が多数います。
災害時の医療とは、こうした平時から続く医療の、災害時の状態を指します。
軽い手術後で回復を待っているというような状態であれば、単に寝床と食事が提供できれば良いかもしれませんが、人工呼吸器など生命維持を医療側が制御している状況では、それを続けられなくなることは患者の生命を脅かすことになります。
災害医療圏域 | 災害拠点病院名 |
神戸 | 兵庫県災害医療センター・神戸赤十字病院(基幹災害拠点病院) 神戸大学医学部附属病院 神戸市立医療センター中央市民病院 |
阪神南 | 県立尼崎総合医療センター 兵庫医科大学病院 県立西宮病院 |
阪神北 | 宝塚市立病院 |
東播磨 | 県立加古川医療センター |
北播磨 | 西脇市立西脇病院 |
中播磨 | 県立姫路循環器病センター 姫路赤十字病院 独立行政法人国立病院機構姫路医療センター |
西播磨 | 赤穂市民病院 |
但馬 | 公立豊岡病院 公立八鹿病院 |
丹波 | 県立丹波医療センター |
淡路 | 県立淡路医療センター |
療養も老健も精神も
普段、外来診療すら行わないような医療機関であったり、外傷などの急性期患者はまったく診ないような施設であっても、被災はしてしまうので自院の患者を守っていく責務はあります。
積極的な診療はできなくても、生命を落とさないための対処はしていかなければなりません。
福祉施設も例外なく
大震災などは広範囲に、対象が何であれ危害を加えます。
高齢者施設だから被災しても何もしなくて良いということはなく、職員も入所者もみな被災者ではありますが、何らかの理由があって福祉施設に入っている弱者たちを守ることが必要になります。
平時のサービス水準維持は目標にならなくても仕方ありませんが、いかにして栄養を摂っていくべきか、無理なのであればどのようにして救援を呼んだり、他施設へ移動すべきか、方策を練り実行することが求められます。
2024年3月末までに
2021年4月より、介護報酬を受ける事業所に対しBCP(事業継続計画)の策定が義務付けられました。
猶予は3年間なので、2024年3月末が期限です。
計画することが目的化しないように、厚生労働省ではBCPの雛型を公開し、策定すること自体はどこの事業所でも実践できるように配慮しています。
では、何が重要かと言えば結果です。
災害が発生したときに、必要な行動がとれるように計画するのがBCPですから、その実行力が問われる訳です。
停電を想定したのに停電対策をしていない、などということは徐々に許されなくなっていきます。
【参考】厚生労働省:介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修
国立病院は2020年12月末までに
介護施設に先立って国立病院ではコロナ禍の2020年12月末までに提出が求められました。
国立病院といえば災害拠点病院に指定され、DMATの拠点となっている施設も多い一方で、昔の『国立療養所』の流れをくむような施設では、民間ではあまり診られない疾病を対象とした、特殊な施設も少なくありません。
筆者が入院し手術を受けたことがある病院も国立療養所でした。整形外科に入院しましたが、その3倍以上の規模で結核病棟がありました。
筋ジストロフィーなどの神経難病の患者も多数入院していましたが、急性期ではないものの人工呼吸器を必要とする患者が多数居ました。
新患は受け入れない、診る病名は非常に少ない医療機関であっても、生命をつなぐためには医療従事者とエネルギーインフラが必要になります。
災害時の医療は誰のもの?
経済的自由が許されている日本では受益者負担主義、欲しいサービスがあれば自己負担してくださいというのが一般的な経済の仕組みです。
ただし、国民皆保険制度を敷いているため医療費負担は一定割合、そして係る医療費は診療報酬制度の中で公定価格が決められています。
すなわち、日本のどこで心筋梗塞になっても、同じ手術なら費用も同じ、というのが日本の制度です。
では、災害時の医療とはどのような仕組みになっているでしょうか。
実は、制度上のインセンティブはありません。
持出し主義?
いま、入院患者を診て病院が貰えるお金、医療行為を除いたベッドフィーはビジネスホテルよりも安いのではないかと言われています。
1泊4千円という試算も聞いたことがあります。
駅前一等地でも沿岸リゾート地でも、電動ベッドも手動ベッドも、特に差が出るような制度ではありません。
このベッドフィーに、災害対策も含まれてしまいます。
仮に5千万円の発電機を購入しても、診療報酬から手当されることも無いです。
すなわち、利益を削って防災に充てなければなりません。
発災後に単価の高い電力と食糧を患者に供給したとしても、その差額は貰えません。通常の診療報酬を請求するだけです。
医療従事者は人道的なのでその善意や使命感に依存しています。義務がある訳ではないにも関わらず、医療従事者は真面目に『災害時の医療』を見据えた対策を講じています。
医療崩壊≒診療機能停止
もし医療継続を断念せざるを得ない状況に追い込まれ、診療を停止し、患者を放出したとしても、それは仕方ないことです。
COVID-19流行拡大以降、大変な日々が続きましたが、安易に診療を放棄するような医療機関は無かったと思います。
2020年春の時点では、マスクが5倍の価格になっても診療報酬は不変であったため、ある大学病院では毎日数十万円の負担増、そして患者減の二重苦がありました。
赤字で続けられる医療はありません。
経営破綻するか、税金などから補助を貰うしか継続する方法がありません。
診療機能が停止するとどうなるかと言えば、1施設だけの停止であれば他院が引き受けることでどうにかなる場合もあります。
しかしそれが複数施設であったり、1千床クラスの大病院であったりすると簡単な話ではありません。
COVID-19で『医療崩壊』という言葉がよく聞かれましたが、コロナ診療ができなくなったときが崩壊だという論調がよく聞かれます。
しかし実際には救急車の受入れが困難になっている時点で医療崩壊は始まっています。平時であれば119番通報から数十分後には救急病院で治療が始まっているはずが、数時間経っても救急車の中に居るというのは、医療崩壊に等しいと思います。
医療崩壊後のPDD
医療崩壊のあとに起こるのがPDD(Preventable disaster death)、救い得た災害死です。
死(death)まで行かなくても、後遺障害が残るようなケースもありますが正確な統計データなどはありません。
先述の災害医療は急激に増加した外傷患者などを診るため、その優先順位を決めていくトリアージが行われます。
しかし災害時の医療の対象となる、既に入院している患者はトリアージ以前に、何らかの医療が必要で入院している状態にあります。
例えば停電して診療に制限がかかり、八方ふさがりで何もできないとなったとき、電気さえ通っていれば救い得た命を落とすことになるかもしれません。
入院中に急変しても多様な処置で救ってきた命が、何かが足りずに救えなければ亡くなった患者や家族は悼み、医療従事者の心も傷むことでしょう。
災害時の医療を支えたい
私たちは、災害時の医療・福祉の支えに資する取り組みを実践中です。
また、改めて報告致します。