MEは略称?
本サイトのドメイン『mekiki.me』は『ME機器』(エムイーきき)に由来しています。
その『ME』とは何か、一般的な言葉では無さそうです。
- Medical Equipment
- Medical Electronics
- Medical Engineering
- Medical Engineer
上記の言葉の略称として使われる事が多いです。
お察しの通り、この時点でブレがあります。
Medical Equipment
『Medical Equipment』はGoogle翻訳で『医療機器』と訳されます。
一般的にも医療機器として使われます。米国在住者に確認したところ、米国でも医療機器の意味でmedical equipmentという言葉は使われるそうです。
そうなると『ME機器』は『医療機器機器』になってしまいます。
【参考】Google 翻訳: Medical Equipment 英語⇒日本語
Medical Electronics
『Medical Electronics』はGoogle翻訳で『医療用電子機器』と訳されます。
電気分野の国際規格である国際電気標準会議(IEC: International Electrotechnical Commission)にあるIEC 60601という規格は、日本ではJIS T 0601という規格と関連しますが、JISの規格名称は『医用電気機器』です。
おそらく日本の『ME』はこのあたりから来ているのではないかと考えられます。
筆者が大学生の頃、教科書的には『医用電子機器』が『ME』とも称されるといった主旨の事を習いました。
論文検索すると、いくつかの題名に『医用電子機器』が使われていますが、昭和の時代が中心です。
- 産科臨床における医用電子装置の変換器と記録・表示装置について(1963)
- 医用電子機器の最近の進歩について(1964)
- 宇宙医学の分野における医用電子機器(1965)
- 医用電子機器のための電線およびケーブルについて(1975)
- IEC/SC62D(医用電子機器)’84マーストリヒト会議報告(1985)
- IEC/SC62D (医用電子機器) ’85ワシントン会議に出席して(1986)
- 医用電子機器における電波障害対策の現状(1988)
- 医用電子機器の接地と安全に関する疑問点とその周辺(2001)
- 広帯域電磁波源による医用電子機器のEMC問題に関する検討(2009)
- 医用電子機器の電磁両立性(EMC)に関する研究動向および課題(2019)
1964年(昭和39年)の第39回医科器械学会総会では東京大学医学部医用電子研究施設の大島正光教授が特別講演を『医用電子機器の最近の進歩について』の題名で登録しています。
大島先生の抄録では『メディカル・エレクトロニクス機器』(2ページ目・左段落・9行目)という言葉が出てきます。後述では『ME』(3ページ目・左段落・17行目)と省略されています。
今から半世紀以上前から『ME』は『Medical Electronics』を語源として『医用電子機器』を指していた事が覗えます。
【参考】Google 翻訳: Medical Electronics 英語⇒日本語
【参考】IEC公式
【参考】JISC公式
【参考】 Google Scholar: 医用電子機器
【参考】テレビジョン学会誌: 東京大学医学部医用電子研究施設
Medical Engineering
『Medical Engineering』はGoogle翻訳で『医用生体工学』と訳されます。逆に『医用生体工学』を英訳すると『Biomedical engineering』と訳されます。
公益社団法人日本生体医工学会(Japanese Society for Medical and Biological Engineering)は平成の改称前までは『日本エム・イー学会』と称していました。1962年(昭和37年)の設立趣意書では『エレクトロニクス』が繰り返し使われており、参画する国際組織もInternational Federation for Medical Electronics(IFME)なので『Electronics』が使われていました。現在の生体工学会は『Engineering』を使っています。
日本エム・イー学会に入会するときに、専門は『M』か『E』かを選ぶ欄がありました。現在の入会申込書にも『医学・生物学系』と『理学・工学系』という2つの選択肢と、30字以内での詳述が求められています。
先述の医科器械学会も平成に改称し日本医科器械学科は一般社団法人日本医療機器学会に改められました。英語表記は『Japanese Society of Medical Instrumentation』です。医科器械学会の時代から『Medical Instrumentation』ですので『ME』とは一線を画している部分もあります。医科器械学会は1923年(大正12年)に設立、日本医学会第34分科会にも認定される歴史ある学会です。
筆者の所感では、生体医工学会は研究者が多いイメージ、医療機器学会は現場の人が多いイメージです。
ただし、両学会にまたがって活動する人も少なくないので、筆者も両学会で一般演題を発表した事があります。
また、臨床ME専門認定士制度は両学会の合同事業です。
話を『ME』に戻すと、学問体系として確固たる分野が確立されていないことが『Engineering』としての『ME』が統一されない遠因かもしれません。
学士には以下の物があります。
- 臨床工学(14)
- 生命工学(3)
- 生体医工学(1)
- 医用生体工学(1)
- 医療工学(1)
- 医療情報工学(1)
修士には以下の物があります。
- 臨床工学(1)
- 医工学(3)
- 医療工学(1)
- 生物工学(2)
- 医理工学(1)
博士には以下の物があります。
- 医工学(4)
- 医療工学(1)
- 生命工学(1)
- 生物工学(2)
- 光医工学(2)
- 医理工学(1)
いずれも学位を取れる学部や講座の数が少ない事が見て取れます。
医工学系の研究者は医学博士か工学博士の課程に進み、人によっては両方の学位を取るので『医工学』の博士号を取得しようという事になりづらい、国際社会では医学博士や工学博士でないと研究者としての肩身の狭さを感じるのかもしれません。
近年、医工学系の講座に医工学系出身の教授が居られますが、以前は医師(医学博士)か工学研究者(工学博士)がほとんどでした。
『Medical Engineering』という言葉は在りますが、それを定義する人や学問が確立されなければ、『ME』という言葉も定義があいまいなままになりそうな気がします。
【参考】Google 翻訳: Medical Engineering 英語⇒日本語
【参考】日本生体医工学会: 学会案内
【参考】日本医療機器学会: 日本医療機器学会について
【参考】独立行政法人大学改革支援・学位授与機構: 学位に付記する専攻分野の名称
Medical Engineer
『Medical Enegineer』はGoogle翻訳で『医療エンジニア』と訳され、何か曖昧さが残ります。
医療系のエンジニア全般を指すと言えば格好は付きますが、特定の職種を指していないとも言えます。
とはいえ、現場では『MEさん』と呼ばれる職種もあります。
【参考】Google 翻訳: Medical Engineer 英語⇒日本語
electronics⇒engineering
『ME』の『M』は『medical』で間違いなさそうですが、『E』はかつて『electronics』、21世紀には『engineering』になったと考えて良いのではないかと考えます。
心電図など生体の電気信号を取り出すことから、逆に刺激を与えてペースメーカーなどに応用されたelectronicsは、更に進化して超音波装置や内視鏡などの診断装置に発展しました。やがて診断から治療へと工学(engineering)の応用が広がり、電気(erectronics)という特定分野から広義の工学(engineering)へと変遷したと考えられます。
おわりに
今回はMEについて取り上げました。
『ME』と言われたときに、現在の感覚としては医療系の工学を想像して頂き、『ME機器』と言われれば医療機器を想像して頂ければ、会話としては差し支えないと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。