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カジノ・IRとヘルスケア | MeKiKi

IR

 IRとはIntegrated Resortの略語で、和訳は『統合型リゾート』です。

 報道では『カジノ』が前面に出る事が多いのですが、IRに占めるカジノの面積は1~2割程度であったりします。

 『リゾート』なのでアミューズメントやエンターテインメントなどが充実するものと思って頂いた方が良いのかなと思います。ショッピングも充実します。

 MICE(マイス)施設が併設される例が多く、東京ビッグサイトよりも大きな展示場が設置されることもあります。




MICE(マイス)

 MICEとはMeeting、Incentive、Convention、Exhibition/Eventの頭文字からとられた造語です。


Meeting

 Meetingは、株主総会や決起大会など企業が行う会合を指す事が多いです。コロナ禍で実施が控えられていましたが社内研修会や交流会などもこのMeetingに含まれます。
 ユニバーサル・スタジオ・ジャパンにもMeetingサービスがあり、会場や様々なサービスが付帯して1,000万円くらいで開催できたと思います。


Incentive

 Incentiveは報奨旅行など、現金とは違うボーナスや表彰です。
 外資系ではよくあるのですが、営業成績1位をとればヨーロッパ10日間の航空券とホテル、100万円まで使い放題のクレジットカードを渡されて勤務扱いとして時間までプレゼントされるといったことがあります。
 このIncentiveの目的地としてMICEが選ばれるように各地で様々な仕掛けをしています。


Convention

 Conventionは、大規模なもので言うとサミットのような国際会議があります。
 以前、ある有名な方の御一行様が熊本を訪れた際、たまたま筆者も熊本に居たのですがいつも泊まるホテルが貸切になっていました。
 191室あるホテル、1室2万円でチャージしても1日400万円、関係者以外が出入しないようにレストランなどの休業補償もあると思いますので1日500万円くらいでしょうか。
 世界のVIPがあつまるとタクシーやハイヤーも車両が足りないほどですので、大きなお金が落ちます。

 頻繁に開催されているものとしては学会があります。医療系だけでも年間100を超える学会が開催されていますが、規模が大きいと学会期間中に数万人が訪れ、昼は学会、夜は宴会、土日も関係ない医療従事者は誰かが病院で働いているので帰りにはたくさんのお土産も買います。観光旅行と違って学会場から近い範囲で2~3日を過ごすので、落とすお金もそのエリアに集中します。
 1万人が宿泊費と飲食で3万円消費すれば3億円、もう少し規模が大きく高いステータスの医師らが集まる学会だと10億円以上の経済効果が見込まれます。


Exhibition/Event

 Exhibition見本市や展示会などと呼ばれるものです。
 有名なものですとモーターショーや家電見本市などがあり、出展料だけでも会場は黒字ですが、それ以上に周辺に落とすお金が大きいです。

 Eventはそのままイベント、例えば東京ビッグサイトで開かれるコミケは連日数十万人の集客があり、会場のキャパ不足が指摘されています。




なぜ『カジノを含むIR』と言われるのか

 カジノが無ければIRではないという訳ではないですが、カジノがIRに貢献することは間違いないと思います。

 面積では1割程だとしても、来客1人あたりの使う金額がケタ違いです。

 一晩で1,000万円以上も賭けるハイローラーも少なくないカジノでは、ディズニーリゾートで散財する国民10人よりもハイローラー1人が使う額が大きくなります。

 賭け事なので勝ち負けがありますが、勝ち負けに関係なく儲かる仕組みがあります。




3対1のきまり

 国によって制度は異なりますが、日本における公営ギャンブルは、売上高の75%が的中者への払戻金、残る25%は主催者の収入となります。

 競輪とオートレースは経済産業省が所掌、競艇は国土交通省、競馬は農林水産省、スポーツくじ(toto)は文部科学省です。
 これらの省庁が25%を収入とし、必要経費を差し引いた上で公益事業に還元しています。

 なお、パチンコはそもそも賭け事ではないという定義なので、ギャンブルではありません。マージャンも賭け事ではありません。

【参考】公営ギャンブルの変遷と課題:ながさき経済(国立国会図書館デジタルコレクション)




IRにおけるカジノも収入源

 国内に新設されるカジノについても還元率のようなものは規定されるものと思われます。

 カジノ場の面積はショッピングモールやMICE施設に比べて少ない1~2割でも、売上としてはIR全体の8割程を占める可能性があり、IRにカジノが欠かせない理由となっています。
 カジノで稼いだ原資でジェットコースターを造ったり、eスポーツの高いに賞金を何億円も出したり、他のショッピングモールではできないイベントやアトラクションに投資するので、IRの魅力は高まる一方です。




カジノの収益構造

 日本の公営ギャンブルが賭け金の75%を払戻金、残る25%が一旦は売上として事業者に収納され、そこから必要経費などを支払い、残った金が補助金などの別事業に還元されます。

 カジノでも同様に払戻金75%、残る25%が売上として収納されるとして考えてみます。

 カジノに設置されるスロットマシンが1,000台あったとして、1日に1台あたり30万円賭けて貰えれば売上3億円、75%払戻しても7,500万円の収入になります。年間275億円の売上規模となると大きいですが、カジノ全体で見ると比較的ゆっくりとした売上になるかもしれません。

 ポーカーやブラックジャックなどのプレイヤーは、一晩で1,000万円も賭けてくれるハイローラーが居ます。
 スロットマシンで1時間に10万円使うという人と違い、数時間で1,000万円も賭けるので、賭けた時点でカジノ事業者側から見れば250万円の売上をもたらしてくださる上客です。

 ハイローラーがギリギリまで遊んで帰れるように、大阪IRであれば舞洲から関西空港までのヘリの用意、関空でいつでも飛行機に乗れるようにオープンチケットを手配しておくといったこともカジノ事業者がするかもしれません。これらに100万円かかっても、リピーターとして来場してもらえれば十分です。

 ハイローラーさんが賭けるのは、他の方々が負けてしまった分を勝者として持ち帰るためですので、カジノ事業者としては誰が勝ったとしても収支に差はありません。
 場に賭けられた額の25%がカジノ事業者の取り分です。厳密に言うとチップと現金の換金時に手数料が発生するものと思われるので、客の間を行ったり来たりするチップにはカジノ事業者の売上は関わらないと思います。

 賭けの場が、それだけ盛り上がって、たくさん賭けてくれるかが重要なので、トランプを使った賭けを仕切るディーラー(dealer)の育成にも注力しています。




ギャンブル性には関係ない?

 『ギャンブル性』の定義によりますが、ギャンブル性が高いと言われる場合に倍率が高く、当たる確率が低い賭け事を挙げることがよくあります。

 ただし、宝くじも100円が1億円に変わるので100万倍、当選確率は100万分の1よりも低いのでギャンブル性の高さに引っ掛かりそうですが、末等が10分の1の確率なのでハズレになる確率は10分の9未満です。

 『丁半』、すなわち偶数か奇数かを当てるサイコロの賭けは当選確率2分の1ですが、次々と繰り返されることで、負けが続いてもやめられないところにギャンブル性があります。

 さて、カジノにおいてディーラーの采配がギャンブル性を高めるかというと、それはあまり関係ないと思われます。
 ディーラー側には一定のルールがあり、それを逸脱する行為は認められないので監視されています。
 たとえばブラックジャック(Blackjack)というゲームではカードの合計『21』が最高位の組合せですが、ディーラーはギリギリの賭けはできません。ボーダーラインが『17』と決められたら、17以上になるまでカードを引きますが、17以上になったあとはカードを引く事ができません。

 ほかにもディーラーにはルールが定められているので、ディーラーがプレイヤーを煽ることはできないと思います。




ギャンブル依存症が増える!?

 IRの反対理由に『ギャンブル依存症』を挙げる方々が居りますが、これについては十分な議論が必要だと思います。

 そもそも日本ではギャンブル依存症の存在について『症状』から見るのか『法制度』から見るのか、という問題があります。

 パチンコやスロットはギャンブルとして認められていないので『パチンコ依存症』があったとしても『ギャンブル依存症』という診断にはならない可能性があります。
 法令上、ギャンブルとして認められていないものもギャンブル性があれば依存症と診断できるようにしなければギャンブル依存症の治療には至らない、患者側に逃げ道を与えてしまう可能性があります。

 症状から見ると 『ギャンブル性』はどこにでも存在するので、どこまでをギャンブルと言うのか、またはどのような状態の人を対象にするのか議論が必要です。




手数料の明確化

 競馬や競輪では1着や2着を予想して賭けます。

 馬券や車券などと呼ばれる投票券が1口100円だとして、その100円に対して何円の配当があるかという倍率(オッズ)が出ています。

 賭ける人(プレイヤー)は100円を原価、それに対する利益をオッズから計算します。

 カジノについては方法が異なる可能性があります。
 チップと呼ばれる、特定の場所でしか使えない通貨のようなものを買わないとカジノで賭け事ができない仕組みになり、そのチップを買う(換金する)際に明示的に手数料を取られる可能性があります。

 例えば10,000円支払って渡されるチップが7,500ベル(単位は不明)とします。あとで換金するときは1ベル=1円だとすると、チップを買う時点で25%、ここでは2,500円の手数料を取られることになります。

 パチンコ屋さんの貸玉がこのような仕組みだと思いますが、それに対する抵抗感がある人はカジノには来ないのかもしれません。

 現状では依存症対策として入場料を徴収するとか、入場回数を制限するということが決まっています。
 ただし、ギャンブル依存症の方にお聞きしたところ、入場料が6,000円でも10,000円でも、依存症になってしまえばその金額がハードルになることはないと思う、とおっしゃっていました。




生活を脅かすのは基準か?

 月収20万円にも満たない人が、家に配偶者と子供がいるにもかかわらずギャンブルに1回10万円も使う、と聞いたときに『この人はギャンブルをして良いのか』と感じる人も居るでしょう。
 さらに『昨日は3万円負けたから今日は取り戻す』『昨日は1万円勝ったので今日はこれを使い切ってもプラマイゼロ』などと言って出掛けるようであればギャンブルへの依存症状がありそうにも見えます。

 このように、生活水準に見合わないような額を使う場合や、次から次へと理由をつけてギャンブル場へ行こうとすることは、止めてあげないと生活や家族を危機にさらす可能性があります。

 では、一生懸命に働き、節約もして貯めた1,000万円をどこかの会社の株に換えるのはギャンブルではないでしょうか。先物取引はどうでしょう。外貨に換金なら通貨同士だからギャンブルではないのでしょうか。という問題が生まれます。
 どれもリスクがあるから、利益が得られると考えると、一定程度の賭けは必要になります。上場企業の株式については証券取引所の監視があり情報開示などが義務付けられているので多少のリスクは回避でき、不正で突然倒産する企業よりも、健全な企業の方が圧倒的に多いのでギャンブル性はさほど高く無いとも言えます。ただし、一瞬で全株を失うリスクが低くても目減りするリスクは常にあり、1,000万円で買った株が半値のまま何年も継続するということもあり、実質的に500万円を失ったとも言えます。

 この目減りが生活に影響するのであれば、それだけでギャンブル依存症というのは少々強引なところもあります。

 ギャンブル依存症のイメージは、この歌の人物像かなと思います。

『仕事しろ、仕事しろ、女房、子供が泣いてるぜ』
『新装開店大ハシャギ』
『一度もうけりゃやみつき、一度負けりゃ落ち込み』
『フィーバーかかりゃ足を組み直し、私がかけたとばかりに胸をそらし』




カジノが新しいから依存症患者を生む?

 これまでも競馬、競艇、競輪、オートレースといった公営ギャンブルが存在し、テレビCMまで流して集客を図っています。

 やりたい人だけがやれば良いというレベルを超え、競馬場に家族で遊びに来ようという特集番組すら見たことがあるので、日本におけるギャンブルへの向き合い方は独特だなと感じます。

 さて、カジノが日本に誕生すると、それが依存症患者を増やすかというと、一概にそうとも言えないと思います。

 スロットマシンについては、既にパチンコ屋さんにたくさん並んでおり、日本では目新しくありません。しかもパチンコ屋さんであれば身元を確認されることもないですし、近所にあるので帰宅途中に寄る事も容易なことです。
 シンガポールにある有名なカジノ事業者の話では、スロットマシンは1施設で1,000台程度の設置ではないかとのことでした。
 日本では、ある市内に1,000台以上ありましたので、カジノ事業者よりも多いマシンが市中に広がっていることになります。

 カードゲームについては、公然と賭けができる場としては日本初となりますので、ブラックジャックやポーカーの愛好家としてはハマる可能性があります。

 ルーレットもこれまでになかった賭博になりますので盛り上がる可能性はあります。
 日本には2個のサイコロを使った丁半賭博が昔からあったので赤と黒に分かれて賭ける賭博には人気が付きそうです。

 ゲーム性という面ではファンが増える可能性がありますが、どうしても賭け事をしたい人にとって、カジノが新設されるから何かが変わるかと言えば、賭けの場が変わるだけで、カジノがギャンブルの色を変えるということは少ない可能性があります。




新しい酒はOK

 2年ほど前のコロナ禍、サントリーが新しいお酒の飲み方をCMで流すようになりました。

 これまでにも焼酎ブームや第3のビールなどがありましたが、こんどは翠ジンと言う事で、居酒屋での食に合うお酒のようです。

 アルコール依存症の人は、どんな酒でも良いのかもしれませんが、よくわかりません。

 まったくお酒を飲まなかった人が、食事の際に酒を飲む習慣を身に付け、いずれアルコールがないと食事ができなくなってしまったら、それは食事に合うアルコールを作った人が悪いのか、そのような習慣を身に付けてしまった人が悪いのか、アルコールを規制しなかった当局が悪いのか、議論しても答えが出ないと思います。

 おそらくカジノも、新たにルーレットを公然とできるようにしたから悪いのか、という追及をしていくと、答えが無いような気がします。

 また、カジノは広告規制として国民に対するTVCMなどは禁止されるものと想定されます。お酒は一定のガイドラインを逸脱しなければTVCM、YouTube広告、新聞広告、雑誌広告、野点看板などあらゆる手段が許容されているので、いずれは議論になるのかなと思います。

【参考】サントリー:翠

【参考】サントリージャパニーズジン翠(SUI)『居酒屋で飲むジンソーダ〜それはまだ、流行っていない〜』30秒 サントリー




まずは『ギャンブル依存症』の診断と治療

 カジノが誕生しようが禁止されようが、日本にギャンブル依存症を疑われる患者が数十万人から数百万人居るという現状は変わりません。

 仮にパチンコなど非合法なギャンブルも含めて『ギャンブル依存症』として、仮に500万人の患者がいるとします。

 現在、競馬や競輪の売上金は産業振興や障害者福祉などの補助金に使われていますが、ギャンブル依存症治療に何百億円も使われているという話は聞きません。

 500万人が1クール1万円の治療プログラムを受けようとすると500億円必要です。

 去年末の住之江競艇の売上は6日間で194億円、25%は48億5,000万円、その1割を治療費に回しても5億円近くになります。
 競艇場はいくつもありますし、レースも年間で何回も開催されるので何十億円もの資金が集まります。
 競馬、競輪、オートレースにも同様の事が言えるので500億円の捻出は現実的な数字であると考えられます。

 ここにカジノの売上から拠出される資金も加われば、手厚い治療が受けられるようになりますし、予防にも投資できると思います。




米国には指針

 米国の精神科学会が診断や治療に関する情報を発信しています。下記はその一部を抜粋したものです。

Gambling disorder involves repeated, problem gambling behavior. The behavior leads to problems for the individual, families, and society. Adults and adolescents with gambling disorder have trouble controlling their gambling. They will continue even when it causes significant problems.

ギャンブル依存症は、ギャンブルの問題行動を繰り返すものです。この行動は、本人、家族、社会にとって問題になります。ギャンブル依存症の成人および青年は、ギャンブルをコントロールすることが困難です。重大な問題を引き起こしていても、続けてしまうのです。

診断

 ギャンブル障害・ギャンブル依存症(gambling disorder)と診断されるには、過去1年間に以下の内の4つ以上が該当する必要があるとされています。

 また、ギャンブル依存症は家族で発症する傾向があることも指摘されています。

  1. Need to gamble with increasing amounts to achieve the desired excitement.
  2. Restless or irritable when trying to cut down or stop gambling.
  3. Repeated unsuccessful efforts to control, cut back on or stop gambling.
  4. Frequent thoughts about gambling (such as reliving past gambling or planning future gambling).
  5. Often gambling when feeling distressed.
  6. After losing money gambling, often returning to get even. (This is referred to as “chasing” one’s losses.)
  7. Lying to hide gambling activity.
  8. Risking or losing a close relationship, a job, or a school or job opportunity because of gambling.
  9. Relying on others to help with money problems caused by gambling

  1. 期待する興奮を得るために、金額を増やしてギャンブルをする必要がある。
  2. ギャンブルを減らそう、やめようとすると落ち着かない、イライラする。
  3. ギャンブルを抑えよう、減らそう、止めようとする努力が何度も失敗する。
  4. ギャンブルについて頻繁に考える(過去のギャンブルを思い出したり、将来のギャンブルを計画したりする)。
  5. 苦痛を感じているときに、しばしばギャンブルをする。
  6. ギャンブルでお金を失った後、仕返しに戻ってくることがよくある。(これは『チェイシング』(負けを追う)と呼ばれます)。
  7. ギャンブルを隠すために嘘をつく。
  8. ギャンブルのために、親しい関係、仕事、学校や就職の機会を危険にさらす、または失う。
  9. ギャンブルによるお金の問題を解決するために、他人に頼る。

【参考】AMERICA PHYCHIATRIC ASSOCIATION: What is Gambling Disorder?
アメリカ精神科学会:ギャンブル依存症とは何ですか?




全米ギャンブル依存症対策協議会

 米国にはNational Council on Problem Gambling(全米ギャンブル依存症対策協議会)があり、様々な活動を行っています。

 日本でも自殺予防のホットラインはテレビ報道などでも伝えられていますが、米国にはNational Problem Gambling Helpline(全米ギャンブル依存症ヘルプライン)という全米どこからでも1つの共通番号でつながるホットラインがあります。

 ほかにも、カウンセラーの育成や体験談の共有、キャンペーンの展開などの活動を行っています。

 記事を読んでいくと特徴的だなと思ったのが、子供にギフトとして宝くじを贈るのはやめましょうといった啓発です。
 昭和の時代の日本で言うと10代がタバコ⇒シンナー⇒麻薬と進まないようにタバコを吸った時点でやめさせる、タバコに近づけないといった啓発でしょうか。今ではタバコ自体がガンなどの病気を誘発する恐れがあるので成人を含めて喫煙自体を控える啓発が行われています。

【参考】National Council on Problem Gambling




カジノを契機と資金源に

 カジノの利用客が何人、総額何円を使うかわかりませんが、1施設あたり1日10億円としても年3,650億円、その25%が912億円、その1割をギャンブル依存症治療に拠出すると約9億円になります。

 1クール10万円の依存症治療プログラムを開発したとして、9億円で9,000人の治療に使えるので、カジノで生まれる依存症患者を年間9,000人までに抑えれば理論値としてはプラスマイナスゼロになります。

 実際には診療体制の構築、もっと手前にある診断や治療法の確立、人員の養成や確保など社会的な課題としても取り組まなければならないことが多いので、カジノ開業を目途にして、まずは下準備から始められれば良いのかなと思います。




精神科医の領域

 ギャンブルに限らず依存症の治療は精神科の領域になります。

 その診療は精神科医が主に担当しますが、精神科医の数はさほど多くはありません。

 現在、精神科医の専門認定の合格者数は2009年の第1回から第14回までで延べ3,873人です。
 日本精神神経学会の『専門医・指導医』を検索するとデータベースには12,277件表示されるので、おそらく同数の専門医が居るものと考えられます。

 依存症患者が500万人だとすると、そのちりょうを一斉に開始すると12,277人の専門医が、1人で400人もの患者を診なければなりません。

【参考】日本精神神経学会:精神科専門医認定試験の受験者数・合格率

【参考】日本精神神経学会:専門医・指導医を検索する

【参考】協会けんぽ:ギャンブル依存症の治療

【参考】厚生労働省: 中央社会保険医療協議会 総会 第440回 議事録

【参考】厚生労働省: 中央社会保険医療協議会 総会 第440回 資料

【参考】厚生労働省: 中央社会保険医療協議会 総会 第440回 会議資料, ギャンブル依存症に対する集団両方プログラムの効果について, p54




報道は抑えめに

 日本の報道ではしばしば『容疑者は精神科への通院歴があり』などと、わざわざ『精神科』や『精神疾患』を持ち出すことがあります。

 精神障害は不治の病ではないですし、適切な診療を受けることでコントロールできる症状もあります。

 報道する側は悪意はないと思いますが、コメントする人の中には差別的な発言も見受けられます。
 精神科に通っているくらいなので、何を犯しても不思議ではないといった主旨の発言が、実は大きな波紋を呼びます。

 例えば、家族を失って心にダメージを負った人が、精神科に通うことで回復しているとします。そろそろ職場にも復帰しようと思ったときに『精神科に通っていたのであれば接客には出せない』などと言われてしまったらどうでしょう。新たな心の傷を負うことになります。

 また、この手の報道を逆手にとって、精神科に通って薬を処方して貰ってから、その薬をポケットに入れて犯罪を犯せば『精神を病んだ人だから仕方ない』と言って貰えると勘違いする人が居るかもしれません。

 精神科への受診控えが起これば、治せるはずの人を治せない、救い得る人生を台無しにしてしまう可能性があります。

 まずは、精神科を受診することは『善』であるという報道から始めてもらえると、色々と都合が良いと思います。

【参考】公益社団法人日本精神保健福祉士協会:精神障害と事件報道に関するメディアへの提案(2020年10月30日)




依存症集団療法

 2020年の診療報酬改定で新設されたギャンブル依存症治療は『I006-2 依存症集団療法』という名前で保険算定できます。

 令和4年(2022年)の診療報酬改定後でみると『ギャンブル依存症の場合』は『1回につき』『300点』となっています。

 注記として外来受診であること、治療開始日から3カ月を限度として2週間に1回に限り算定ということなので、3カ月で6回の算定、すなわち3,000円×6回で18,000円が1クールとなります。

 カジノの利用者が仮に年間1,000万人として、自国民の利用を半数とした場合500万人が延べ人数となります。1人が10回利用するとなるとユニーク数は50万人です。
 この内の1%が依存症になるとした場合、5,000人×18,000円で9,000万円の治療費がかかります。もっと手厚く週1回、期間を6か月とすると3,000円×24回で72,000円/人、5千人分で3億6,000万円の治療費になります。

 保険医療の場合は3割が窓口負担(患者負担)、7割が保険者負担ですが、この7割の負担についてギャンブルをしない人は保険から出して欲しくないと思っているのではないかと思いますので、全額がカジノ事業者負担であったとしても、売上から出せない額では無さそうです。

 人数が推計できるのであれば、カジノに限らず競馬や競艇などギャンブル関連の事業から治療費を集める基金を作り、労災保険のように基金から医療機関へ直接支払う制度をつくるなど、方法はありそうです。




データに強いMeKiKiとして調査

 ギャンブル依存症に社会保険が使えるようになったと言われ、どれだけの人が利用したのか調べてみました。

 保険収載された2020年4月からの1年間で、保険算定された回数は55回です。
 1回3,000円を『売上』とした場合、市場規模は165,000円です。副業20万円まで確定申告不要だとすれば、税収にもつながらない売上規模です。

 仮に最大数である6回までしっかりと治療を受けたとすると、ユニーク人数は9.17人、すなわち10人です。

 算定の半数は25~34歳の男性でしたが、残る半数は数が少なすぎて不明です。

 算定地域は9割以上を千葉県が占めており、MeKiKiのデータベースで『依存症集団療法2』の届出施設を調べたところ、全国に16軒、千葉県には1軒しか施設基準を届出していなかったので診療報酬を算定した医療機関がだいたいわかりました。

【参考】MeKiKi:保険医療機関データベース




精神科医へのアクセス性向上が必要

 おそらく、ギャンブル依存症であることを自認する人は全国に10人という少なさではないと思います。

 何かを機に離脱したいと思っている人も少なくないと思いますが、診療へのアクセスに課題があるものと思われます。

 受診する先が近くにない、どこで受診すれば良いかわからない、保険で受診すると会社に通知が行きそうなので受診できない、など事情は色々とあると思います。

 アメリカ映画などを見ていると、何か大きなイベントが発生した人はカウンセリングやセラピーを受けることを職場が義務付けたり、夫婦間の問題を解決するために自ら受けたりしています。

 日本では、先述のとおり精神科を受診しただけで社会のおちこぼれのような報道をされてしまう恐れがあるので、精神科とは近づきがたい場所だと思い込んでいる人も少なくありません。

 専門性が高い領域であり、一般内科のように町中に開業して患者が集まるほどの受診者数でもない現在、市町村すべてに精神科が開業されるほどにはならないと思います。
 一方で、何らかの形でスクリーニングできるようになれば、近医を受診してスクリーニングで兆候を見つけ、精神科の専門医が居る医療機関を受診して本格的に治療を進めるといった流れが作れる可能性もあると思います。

 依存症はギャンブル以外にも薬物やアルコール、最近ではゲームやスマホへの依存も病的になってきていますので、様々な面から精神科へのアクセスの容易性が求められていると思います。




ギャンブル依存症治療の普及が課題

 ギャンブル依存症の治療を専門とする医師は、まだまだ少ないです。

 まず、ギャンブル依存症と言ってもタイプがいくつかにわかれます。

 賭けるまでじっくり考えたいタイプ、イチかバチかで良いのですぐに賭けたいタイプ、自らが何らかの形で関わりたいタイプが居ます。

 過去データから予想して賭ける競馬や競輪はじっくり考えるタイプの人が好みます。
 丁半賭博のように瞬時に判断して次々と賭けたいタイプには、現在の公営ギャンブルにはありませんがカジノのルーレットが近いと思います。
 パチンコやスロットは、多少はプレイヤーの技術が関わるので技量を誇りたい人には向いています。

 依存症となるのはカネを追い求めるというだけではなく、ある種の興奮を求める『癖』でもあります。
 これにもタイプがあり、競馬や競艇のように予想には十分な時間をかけるが、スタートからゴールまで1分チョットで決まるようなレースで、予想が当たったことに興奮する人、スタートからゴールまでの走行する姿を見ながら投票券を持っていて重なる喜びに興奮する人、大歓声の中で大人数が盛り上がり、その中で数少ない勝ち馬を当てた人になることに興奮する人、色々です。
 年間を通じてみれば散々負けているにもかかわらず、1回でも勝つと皆におごってしまい、結局は散財する人も、その勝者としておごられている人を支配下に置いているような状況に興奮を覚えているようです。

 筆者は精神科医でもギャンブル依存症患者でもないので、実際のところはわかりませんが、興奮を求める性癖のようなことで執着するタイプと、負けたままでは引き下がれないという勝者でありたいと思うがために抜けられないタイプと、いろいろあるようです。

 これらの分類をしなければ適切な治療を受けられない可能性がありますので、診断方法についての開発費をカジノ事業者や税収を見込んでいる自治体に負担してもらいたいところです。




ヘルスケアに年100億円?

 筆者は医療・ヘルスケアが専門、これらのコンサルが生業です。

 これまでの経験の中に、IR事業者とヘルスケアについて語り合うというものがありました。
 実際にオープンな場で、パネルディスカッションにパネリストとして登壇したこともあります。

 そのとき、有名なカジノ事業者の、有名な人と話をしました。

 筆者の提案は『日本には湯治場という文化があるが、海外から来るプレイヤーをリピーターにするために人間ドックなどを組み合わせた生涯のトータルサポートを提供してはどうか』という話題を振りました。
 これには非常に強い関心を示し、色々と議論しました。

 その中で『100億円くらいの予算は出せる』といった発言がありました。
 IRの開業に向けた総工費は安く見ても5,000億円、多ければ1兆円を超えるかもしれないという中で、ハイローラーやその家族らの専用ヘルスケア施設に100億円くらいは出してもよいという話でした。

 ハイローラーが健康であることがカジノ事業者にとっては嬉しい話ですし、カジノに興味のない家族はリゾートの方で消費をしますが、わざわざ日本に来る外国人にとって、日本の優れた医療をタダで受けられるのであればリピーターになる価値がある、といった考え方からこの湯治場プランは出しています。

 また、ヘルスケア関連では、ギャンブル依存症対策や関連する医療・医学研究なども含めて毎年100億円くらいは拠出しても良いのではないかと、カジノ事業者のお偉いさんが言っていました。
 カジノをすれば健康になるというデータは要らないが、カジノやIRが害を及ぼさない、他の要因で依存症になってもカジノの予算で創出された治療法が役立つといったストーリーに、年100億円の価値はあるそうで、この話題はすぐに精神科の先生に持ち込みました。




文化振興にも投資

 予算を出すのはヘルスケアだけではなく、文化全般にも同規模の予算を出すと言っていました。

 舞妓さんや山車など日本の遊びや祭りをIRにくれば毎日体験できるようにして、同時に廃れていきそうな文化も守っていく場にするということでした。山車や神輿は何億円でも買うと言っていましたし、京都の木屋町からIRに分室を出してもらうための交渉をしたいと筆者に打診がありました。筆者の知人を通じれば可能性はあるとお答えしましたが、関西の経済界の大物さんと話した方が早い事も伝えました。

 伝統工芸にも関心を持っているそうです。

 IR利用客の3分の2は外国人となる見込みなので、世界中にあるIRの中で日本を選ぶ理由をつくるとすれば、文化や食など日本特有のものを魅せる必要があるそうです。




近未来医療への投資とチャレンジ

 下の図はだいぶ前に描いた未来のICU的な絵です。大学病院のICUにサテライト病院のICUがバーチャルリアリティのように映っていて、大学病院のスタッフはリアルタイムに横目で観察しながら気になることがあれば助言し、サテライト施設の方では大学病院のICUを肌で感じながら勉強する、困った時には相談するといったイメージで描きました。

 大学病院には、あらゆる診療科の医師が居り、しかも大学で教育や研究まで携わるエキスパートやスペシャリスト人材が豊富に居ますので、遠隔地の施設で珍しい奨励に当たっても大学病院との連携が密にできれば、患者を移送することなく手厚い診療ができます。


 ICUに入る重症者がIRやカジノに来ることは考えづらいですが、こうした医療施設が海外とつながることで現地で出来る最善の診療を進めつつ、いつでも日本で受入できる態勢とすることも重要だと考えられます。

 上海から関西空港まで3時間ほど、岩手県沿岸部から岩手医大まで救急車で3時間ほど、この感覚でシミュレーションしたとき、日本の医療を提供できる圏域は広いなと思いました。

 国民皆保険制度に従った医療の提供においては実現困難であるとしても、IRのハイクラスな会員向けサービスとしてはあり得るかなと思って構想しました。




100億円のヘルスケア施設

 IRの中に造るとすれば、日本によくある保険医療を提供する医療機関とは異なり、人間ドックや保健室といった位置づけで運営される施設になるかなと思います。

 既にVIP向けの人間ドックサービスは存在し、1回で100万円というコースも利用者が居るのでVIP人間ドックはIRの目玉にはなりません。
 とはいえ、最低限のサービスとして必要なためMRI、CT、内視鏡、血液検査装置などは整備する必要があります。

 一歩踏み込んだサービスとしては血管内造影検査、必要に応じて治療というくらいは行う可能性があります。

 病室という考えは固定概念を捨てる必要があります。
 IR内のホテルをそのまま使うか、ヘルスケア施設内に入院施設を造るとしてもホテルと同じ調度品、食事やサービスもホテルから取り寄せる感じかなと思います。


 湯治場の構想を具現化するとすれば、脳卒中後のリハビリ、がんの化学療法など半年を1区切りとするくらいの長期間で提供する施設があっても良いかもしれません。滞在費と診療費が1日50万円でも180日で9,000万円ですので、支払能力のある人は世界中に居ます。

 医療よりもヘルスケアに寄った方が需要はあると思いますので、IRに来なければ受けられないサービスと、持ち帰って次回来場まで健康を維持するようなサービスの2種類が求められると考えます。

 2023年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)では日本代表のダルビッシュ有の直接指導を受けた日本人選手が新しい球種を覚えて実戦でも使っている様子が見られました。
 一流のアスリートがコツやノウハウを指導し、それを身に付けられるようなヘルスケア施設には魅力があると思います。トレーニング法などを持ち帰って継続し、再びIRに来た時には、再び同じ講師から指導を受けてアップデートするというサイクルは理想的だと思います。

 IRはカジノのためにある訳ではないので、利用者は誰でも良いと思います。
 近年表彰台に日本人が常連のスポーツの拠点がIRに在っても良いと思います。
 例えばアイススケートです。現役も引退者も活動拠点はいつもIRとなれば、選手層は厚くなると思います。スポーツ選手としてトレーニングする場が提供され、選手にならずともアイスショーで毎日お客さんを呼びこみ、練習の指導でも収入を得られれば、色々なプロフェッショナルの形をつくることができます。

 筆者はバスケットボールをしていたので、プロバスケチームの拠点を置きつつ、素人がフラっと行っても集まった者同士で草バスケができ、お金を払えばプロの指導を受けたりできると面白いなと思います。
 実際、2メートル級の選手を相手にする機会は少ないので、マッチングの場があると良い練習になるなと思います。

 ヘルスケアにおいては、アスリートのように極限まで鍛えるタイプはごく少数、健康志向や愛好家の層が人数も多く費用負担も抵抗感が少ないので、ビジネスとしては成り立ちやすいです。
 ビジネスとして独立採算もしつつ、カジノの収益還元としてプロを育成するという循環がIRらしさかなと思います。

 このように考えると100億円のヘルスケア施設には医療機器をずらりと並べるだけでなく、体育館やアイススケート場などの付帯施設も必要になるので、100億円では足りない試算になりました。




テーラーメイド医療サービス

 自身の細胞を預けて、培養や加工後に自身へ使うような再生医療の世界もIRの資金が流入すれば進化すると思います。

 心臓や骨など生きていくために必要な臓器や組織の再生は重要ですが、それを均霑化するためにはいくつものハードルがあります。

 生命には関わらない美容系は、お金がある人が必要な費用を負担するので、仮に1cm角の皮膚1枚が10万円でつくれるとしても100万円でしか売らないと言えば、お金がある人は買う可能性があります。顔一面で1億円と言われても、50代の人に10代の肌が移植されることに価値を感じる人は居ると思います。
 この差額が次の研究資金になりますし、移植技術も身に付くので研究の振興としては悪くない構図です。

 IRでは富裕層を対象としたサービスが多く提供されるので、最先端医療を特別に提供する場としての活用には期待が持たれます。
 創薬についても、個別化が進むであろう数十年後を見据えると、そのテストケースにかかる費用が税金ではなく、富裕層の自己利用のための私的資金であれば、日本国民が受ける保険医療の低廉化にも寄与するかもしれません。

 勝手なイメージのテーラーメイド創薬ですが、患者から取ってきた細胞を分析して薬の候補を挙げ、その薬を調製します。調製の間に細胞を培養しておき、調製されたテーラーメイド薬剤を細胞に投与して反応を見て、有効性や安全性が確認されれば患者に投与するといった流れになるのかなと思います。最先端っぽいですが、細胞と薬を直接接触させるアナログも併用するあたりが医療らしさだと思います。
 この一連の流れが自動化されるまでは、高度な技術を持った医師や薬剤師、検査技師らが関与する必要があり、その維持費だけで年間数千万円かかりますので、保険医療となるには自動化が必要だと思います。
 自動化されるまでは、IR内で熟成させてもらえると、国民の医療費負担が軽減されるのではないかと思います。




認知機能への影響は?

 IR法案が動いた頃、介護施設ではルーレットやスロットマシンといったカジノで使われる機材が撤去されました。

 現金を賭けている訳では無いですが、行為そのものが法に抵触する恐れが出たためでした。

 一応、現金を賭けなければ許されるようなので、現在も模擬カジノを展開する介護施設は存在しています。

 例えばおやつを我慢してチップを貰うような仕組みでは無く、普通に生活すればチップを貰えるといった仕組みであれば違法ではないのかもしれません。

 法整備については置いておき、効果としては悪くないようです。高齢の独居者は会話する機会も無く、テレビから流れる一方的な情報を得るにとどまることもありますが、模擬カジノでは負けないようにと頭を働かせるようです。施設入所者も炊事や洗濯などは施設側が行うので自身には生活感のある仕事がなく暇を持て余していますが、カジノが楽しみになる人も居るようです。




依存症施設は別置

 ギャンブル依存症の施設もIRには必要になると考えられます。

 施設には大きく3種類あると思います。

 1つは、ギャンブルとはどのようなものかを体験したり、依存症の傾向があるかをスクリーニングしたり、依存症を自認する人が相談したりできる総合的な施設です。これはIRの中にあっても良いと思います。

 2つ目は、普段から通えるアクセス性の良い専門施設です。イメージ的には2次医療圏に1つくらいは欲しいかなと思いますが、まずは都道府県に1つくらいからスタートでしょうか。オンラインも併用しながら、常態的に通院するようなものですが、医療機関である必要性はなく、自助グループなどの活動も含めた地域に根差した拠点が必要になると思います。

 3つ目は、集中的に治療する専門施設です。入院療養のようなものですが、保険医療のように全国一律というものではなく、ある程度は実験的なことも含め、未解明の依存症についても治療と研究が進むような病院+療養所+研究所というセンターが必要になるのかなと思います。

 1番目の施設はIR事業者が全額出資でも良いくらいだと思います。
 2番と3番はギャンブル事業者を営むカジノ事業者、競馬や競艇の事業者、宝くじの事業者、その他の関連法の下で事業を営む事業者による基金で運営されるものかなと思います。

 ギャンブル依存症の治療のために、カジノがあるIRに通うのは非合理なので、ギャンブルと縁を切れる環境整備が重要だと思います。
 そのためには、そこで働きたいと思える医師や看護師らの人材育成や職場環境整備、キャリアとしてプラスになるような研究振興やスキル習得の機会などが必要になります。




多様性の時代ゆえのディスカッション

 カジノ、IR(アイ・アール)、MICE(マイス)など賛成と反対に分かれるのは仕方ありませんが、それぞれの主張について意見を交わす場があると良いと思います。

 小さなことかもしれませんが、ある場所で行われるイベントが有名になり市外から訪れる人が増えて喜んでいる自治体がありました。
 しかし、その恩恵を受けているのは一部の飲食店や交通機関くらいで、地域住民はイベントへの参加がしづらくなり、交通渋滞でイベント期間中は外出も自粛となり、イベント後はゴミが散乱し街は汚れ、一時的に治安も悪化するなど悪いイメージが付いてしまいました。
 地域振興として、最初は市民からも後押しする声が多かった事業がいつの間にか逆風、自治体としてもどうすべきかわからなくなったことがあります。

 カジノやIRについても賛成派は良い所ばかり、反対派は悪い所ばかり指摘しているのではないかと思っている国民も少なく無いと思いますので、例えば『なぜ経済効果があるのか』『なぜギャンブル依存症が増えるのか』といった根拠になる部分についての議論を、公開の場でも繰り返していく必要があると思います。

 特にギャンブル依存症については、カジノ利用者の3分の2が外国人となるならば日本に来ずともマカオやシンガポールに行くことができる方々ですので、まず外国人については話題から離しておいても良いかもしれません。
 ハイローラーとなる日本人についても、その一部の人は週末に海外へ渡航してカジノで遊び、月曜朝には日本で出勤しているので、国内にカジノができたから依存症になるということはどこまで考えるべきなのか、議論が必要だと思います。




おわりに

 『カジノ』の『ヘルスケア』と言えば『依存症』という構図が定着してしまいそうですが、依存症については切り離せない課題として、カジノの一部として永遠に続いていくものだと思います。

 カジノを原資としたIRでの事業としてのヘルスケアについては、広い世界が待っていると思います。

 保険医療では難しい医療の普遍化に向けた社会実験の場として富裕層らのマネーを流入させることも有意義なことの1つだと思います。

 アスリートの活躍の場として、日本代表やプロ選手として闘いの場へ出る人材も重要ですが、その道を選ばない人や引退したアスリートがインストラクターやショータレントとして生きていく場を作ることもIRならではの事業になるかなと思います。
 一流の人から指導を受けられるヘルスケア施設については期待しているところです。

 筆者はギャンブルをしません。
 パチンコも社会経験として行ったことがあるくらいです。
 一方でIRやカジノについては、日本での事業展開について議論する場に参加していましたので多少の知見があります。

 今回は日本でのカジノ・IRが認められるという報道に触れ、少し記事を書くつもりでしたがだいぶ文字だらけになってしまいました。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。