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放射線技師の腕力に依存!?| MeKiKi

医療機器改修情報

 ある日の医療機器改修情報を見ていると『移動型デジタル式汎用一体型X線透視診断装置』の掲示がありました。

 病院では『ポータブル』などと呼ばれたりもする放射線技師さんが押して歩いている装置です。

 ICUなど、患者さんを動かすのが大変な場合、放射線技師さんがICUまで出張して胸のレントゲンなどを撮影します。

 一般的にはバッテリを積んでいて、車輪は電動式で自走できるタイプが多いと思います。電動アシストがないと押せないくらい自重は重いです。




改修の内容

 今回の改修の内容は以下の通り『アーム部の操作中に折れた』という内容です。

 アームが折れてしまうのは、そういう設計だったので改修して強化されれば良いと思いますが、今回の注文点はその下の行にあります。

移動中にアーム部がぐらつく、アーム部の操作中に折れたとの報告を受けましたので、アーム部の強度を上げる
ための改修を行います。

医療機器改修の概要




技師が保持すれば大丈夫

 この改修文書の中で『危惧される具体的な健康被害』の欄は以下のようになっています。

 『最終的に折れに至ります』ということで、折損することについてはメーカーも認めています。

 次の段落では『取扱説明書に記載している日常点検で異常は検知可能』という文言で、取扱説明書どおりに点検しなかった場合にはユーザー(技師)側に問題があるとも読み取れます。

 その次の段落が問題視すべきかなと思いましたが、私は診療放射線技師ではないので何とも言えません。
 『操作者がアーム部等を保持し操作している時のため、被験者に強くぶつかるようなことはない』ということで、アームが折れるときは操作者(技師)が保持しているので、仮に折れても被験者(患者)には強くぶつからないとしています。

 移動中等の衝撃やアーム操作による負荷等で徐々に損傷が進み、アーム部にがたつきが生じ、最終的に折れに至ります。
 損傷は徐々に進行しますので取扱説明書に記載している日常点検で異常は検知可能と考えられます。
 また点検で見逃しても撮影段階における負荷は操作者がアーム部等を保持し操作している時のため、被験者に強くぶつかるようなことはないと考えらます。
 このため重篤な健康被害のおそれはないと考えられます。
 なおこれまでに健康被害発生の報告は受けておりません。

危惧される具体的な健康被害




片手で持っている物

 筆者の同級生の診療放射線技師の内、数十人は女性です。男性に比べて華奢な人が多いです。

 男性だとしても、数キロあるものが落ちる状態、予測していないときに片手で支え切れるのかわかりません。

 状況としては下図のような感じだと思います。

 胸のレントゲンだとすれば、患者さんの旨の上にアームが来ています。
 技師はベッドサイドに立つので、患者さんの真上ではありません。アームの先端は、技師から1mくらいは離れた位置にあることになります。

 骨粗しょう症で骨が脆くなっているお婆ちゃんを想像してみてください。
 アバラ骨が簡単に折れてしまいます。
 筆者の祖母も、くしゃみをした拍子にアバラが折れたことがあります。病院では虐待も疑われましたが、外傷が無かったので信じてもらえたと思いますが。

 そんな人の上に、数キロの落下物、安全でしょうか?




実物は重量感がある

 とある場所で撮影させて頂いた類似機種の写真です。

 左側にあるのが、一般的なドアですが、その高さを比較していただくといかに大きい、背の高い機器かおわかりいただけるのではないでしょうか。

 先端部には色々な物が詰まっていて、そんなに軽いものではないので支えられる自信はないと、放射線技師さんはおっしゃっていました。




メーカーは手順通り

 この改修情報を書いたメーカーさんに悪意がある訳ではないと思います。

 どちらかと言えば前例に倣った感じの文章なので、普通の仕事をしたのかなと思います。

 一方で、医療従事者から見ると気持ちの良い文章ではありません。
 アームが折れるという設計ミスのような商品を買わされ、それによって起こる不具合の責任を押し付けられている感じもしますので、できれば、検証をした上で『体重40kg台の技師さんでも十分に支えられる重さです』と付記してもらえれば、現場も安心だと思います。




インシデントレポートの重み

 医療機関では故意や過失が無くても、何らかの平常ではない事象が起きた場合にはレポートを書く事になります。

 今回の事象で言えば『グラついた』と気づいた場合にはヒヤリ・ハットの事例として報告する程度だと思います。

 実際に折れた場合にはインシデントレポートを書く事になりますし、患者さんにぶつかってしまった場合にはアクシデントとして扱われる可能性があります。

 インシデントレポートは何項目かをしっかり書く必要があり、上長のチェックを受けた上で医療安全管理者に提出され、場合によってはインタビューを受けることになります。

 基本的には再発防止のための取り組みなので、取締りを受ける訳では無いのですが、精神的に良い事ではありません。

 筆者もインシデントレポートは書いたことがあります。
 完全に自分のミスだという場合は素直に書けるのですが、他者によって起こされた事故に巻き込まれたときは、気が進まないこともあります。

 高額商品を買って、安心して使えると思っていたモノが、まさかのインシデントレポートを書かせるモノとなってしまうショックは大きいと思います。




おわりに

 医療機器の回収/改修情報は、第三者にもわかりやすく書くように指導されているので、言葉は平易であることが多いです。

 ただし、内容としては『医療従事者が怠らなければ不具合で健康被害は起こらない』という論調が多く、現場では違和感を感じる人も少なくありません。

 誰のための文書、誰のための回収であるのか、ここに臨床家が関与して行った方がよいのではないかと思います。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。