挿管チューブの『カフ』
人工呼吸療法を行う際に、空気の通り道である『気道』にチューブを挿入して、人工呼吸器からの空気を送り込むルートを確保します。
このチューブを気道(気管)に停留させるために『カフ』と呼ばれる風船を膨らませて、その位置に定着させます。
カフはシリンジで膨らませる
カフは気道(気管)内にあるので、目視はできないですし、当然ながら触る事もできません。
空気を入れるためのポートは口の外、体外に専用のポートが出ていてそこから注入します。
空気の注入には普通のシリンジ(注射筒)を使います。ポートから空気を入れると、連動してカフが膨らみます。
空気注入量は耳たぶ
院内マニュアルにもよりますが、挿管チューブのカフの膨らませ方として『耳たぶ程度の硬さ』と表現していることもありました。
あるいは、カフの空気を全部抜いて、既定量の空気を何mL入れること、というような指示の場合もありました。
前者の場合、そもそも耳たぶの硬さとは何だろうという曖昧さがあります。
後者の場合、気道とカフのサイズがミスマッチだと膨らませすぎて圧迫してしまい発赤したり、スカスカで空気が漏れてしまったりするので、量だけで決めるにも課題があります。
近年は圧力計を使う
カフに関しては様々な医療事故も経験してきたと思いますので、近年ではカフ圧計という圧力計を使って、既定圧になったことを確認するという方式に変わっています。
下の動画で1分4秒あたりに出てきている圧力計がカフ圧計です。
漏れるから
そもそも、カフ圧のチェックが必要であった背景には、カフ圧が不整合となるからという理由がありました。
その要因の1つは患者側の変化、カフが当たっている部分の気道(気管)の太さが変化することがあります。生きていれば当然の変化だと思います。
もう1つがデバイス側の問題、カフの位置がずれたり、カフから空気が漏れたりすることです。
いずれも微妙なズレのようなものですが、小さなカフにわずかな空気量ですので、微妙なズレであっても影響が大きくなります。
漏れた分を補うのが適正
空気が漏れるのであれば、漏れた分を補うのが適正ですので、看護師らが定時チェックでカフ圧を点検します。
人工呼吸器のアラームから気づく事もあります。
連続モニタリングすれば解決
これまで、カフ圧を連続的にモニタリングするデバイスがありませんでした。
それを作ったのが村田製作所と神戸大学の臨床工学技士らの開発チームです。
モニタリングするだけではなく、適正圧を維持するために空気圧を調整する機能が備わったデバイスです。
ニーズ志向の医工連携
この事例では『カフ圧は耳たぶ程度』という曖昧な表現が生み出す課題の解決を図りました。
そもそもカフがしっかりと固定されておらず空気が漏れることが課題であったので、看護師らが定時チェックでカフ圧を確認することがルーチンとなりました。
そのルーチン作業に問題があるのではないかと指摘されても、その作業を止める訳にはいかない事情があり、続けられていました。
定時チェックの際に使うデバイスはカフ圧計に代わりましたが、本来は定時ではなく常時チェックが必要な物でした。
そこに気づく事ができるかどうかが、医工連携のニーズ発掘の目利き役になれるかどうかの差になると思います。
真のニーズとは何か、それを追求することが医工連携におけるニーズ発掘者の本質だと考えます。